白球つれづれ2021~第12回・それぞれの道程
ヤクルト・奥川恭伸投手の開幕ローテーション入りが決まった。
開幕カードとなる阪神相手の3戦目(28日の神宮)の先発を高津臣吾監督が明らかにしたもの。当日は野村克也元監督の追悼試合でもあり、奥川と阪神の黄金ルーキー・吉田輝明選手の初対決など話題満載の注目カードとなりそうだ。
>>1カ月無料トライアルはこちら<<
オープン戦最終日となった21日の西武戦が、2年目のエース候補生にとってローテ入りに向けた最終テストの場となった。
序盤は文句なしの内容。3回まで森友哉選手に許した左前打だけでゼロに封じていく。だが、球数が増えた4回以降はレオ打線に集中打を浴びて5回途中3失点でマウンドを降りた。明らかにスタミナ不足を露呈した格好だが、一方で過去2度のオープン戦登板時より、内容は悪くない。勝負どころのストレートは150キロ超を記録し、四球ゼロの制球力は評価される。
それでも正直なところ、優秀な先発スタッフの揃っているチームならローテーション入りすら難しいのが現状だろう。しかし、オープン戦も最下位にあえぐヤクルトにあっては“藁にもすがる”奥川指名である。
開幕初戦の小川泰弘先発は当然として、2戦目には巨人から移籍の田口麗斗を抜擢しても、3戦目以降の先発陣が何とも苦しい。ベテランの石川雅規はオープン戦の防御率が「30.86」の乱調で二軍調整。ドラフト1位の木澤尚文や期待の左腕・高橋奎二各投手らはアピール不足、先発の一角として計算していた新外国人のサイスニード投手も来日のメドが立っていない。
開幕2カード目のDeNA戦にはアルバート・スアレス、高梨裕稔投手らが先発予定だが、6人目まで揃える事すらおぼつかない。本来であれば、開幕ローテーション入りする投手の場合、最低でも5イニング以上の実戦投球を経て本番に向かうのが常識だが、奥川の最長は西武戦の4回1/3、77球。それでも未完の大器に賭けるしかないのが現在のお家事情だ。
高津監督は「彼の場合は成長させること、育成させること、いろんな意味のこもった最初の登板であり、2021年のシーズンだと思う」と、奥川抜擢の背景を語った。こちらで勝手に解釈すれば、最初から完璧は求めない。5回を3失点程度にとどめれば打線次第で勝機もある。経験を積ませていくうちにさらに良くなっていく可能性もある。仮に結果が出なくても将来の貴重な経験になる。そんな親心の働いた先発3番手指名なのだろう。
ウサギとカメの出世レース
2年前の夏、星稜高のエースとして奥川は甲子園の寵児だった。その同じ頃、全国大会出場の夢は果たせなかったが「令和の怪物」として一躍、脚光を浴びたのが岩手・大船渡高の163キロ右腕・佐々木朗希投手である。奥川が3球団競合の末にヤクルト入団を決めると、佐々木は4球団の指名を受けてロッテに入団した。共に「10年にひとりの逸材」の看板を背負ってのプロ入りだった。
奥川が二軍戦を経て、昨年11月の広島戦で一軍デビュー。そして開幕ローテーションの一角に食い込んだのに対して、佐々木の場合は未だに一軍登板もない。3月12日の対中日オープン戦で初の実戦マウンド。1回を無安打無失点と上々の滑り出しを見せたが、現状はプロの入り口に立った程度のようだ。
高校3年時でも成長痛に悩まされていた佐々木の肉体は未だに発展途上。「今すぐでも目一杯投げれば160キロ台は投げられるが、体が固まらないうちに出力を上げれば、肩、肘の故障につながりかねない」と関係者は言う。
井口資仁監督も「今後、イニングを2、3回と増やしていく中で6回くらいまでコンスタントに投げられるようになれば一軍となるでしょう。それが、ゴールデンウィークになるか、夏頃になるかは、本人の体のリカバリーも含めてみていく」と開幕即一軍登用の考えはない。こちらは、じっくりと育成の道を選ぶ。
逸材故にその育成、起用法は首脳陣も頭を痛めるところだ。チーム事情によっても出番は違う。ある面では「見切り発車」にも映る奥川の開幕ローテ入りと、未だに二軍登板すらなしで、体力づくりを優先するロッテの佐々木教育法。対照的なスタートとなる今季だが、ウサギとカメの出世レースはこれからが本番だ。
桜で言えば満開とはいかない。だが、ルーキーの昨年に比べれば着実に蕾を感じることは出来る。将来性は文句なしの奥川と佐々木。楽しみな2年目の春である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)