球団史に残る“開幕ダッシュ”
猛虎の快走が続いている。
両リーグ最速で20勝に到達し、セントラル・リーグ首位。4月中の20勝は球団初という。
文字通り歴史的な開幕ダッシュに成功した阪神タイガース。けん引する人物は、当然ながら1人や2人に絞りきれない。
西勇輝、青柳晃洋、ジョー・ガンケルらで形成する安定感抜群の先発陣に、打線はジェフリー・マルテ、大山悠輔、ジェリー・サンズの強力な中軸が勝負強さを発揮し、打点を量産。
7本塁打を放っている大型プロスペクトの佐藤輝明、得点圏打率が5割超えの梅野隆太郎に繋がっていく下位打線も相手投手からすれば脅威でしかない。投打のかみ合った状態が1カ月以上も続いているのだから、これだけの白星が積み上がるのもうなずける。
忘れてはならない“8回の男”
まさに「イケイケ」のチームにあって、露出は少ないものの、黙々とミッションを遂行する寡黙な男がいる。
セットアッパーを務める岩崎優。この男の貢献も見逃せない。
4月30日の広島戦では、力投していた秋山拓巳が8回にケビン・クロンのソロで3点差とされ、なお一死二・三塁と攻め立てられたところでリリーフ。会沢翼の犠飛による1点に封じ、反撃の流れを見事に断ち切った。
この快投で今季早くも10ホールド目。ここまで14試合で防御率0.73と出色の内容だ。
開幕前はスロー調整に終始。オープン戦わずか1試合の登板で、連投テストも行わなかった“ぶっつけ”の事実を忘れている人も多いだろう。
きっちりとシーズンに照準を合わせ、フル回転する背番号13には、ブルペンを引っ張る強い自覚がにじむ。
すべては栄冠を掴むまでのプロセス
普段から多くを語ることがない29歳。コロナ禍の取材態勢で、中継ぎ投手の登板後の談話は、球団広報が番記者にメールで配信してくれる。
「0点で抑えることができて良かったです」
実は開幕から岩崎はこのコメントを発信し続けている。
変化があるとすれば、三者凡退の場合は「0点」の部分が「3人」に変わるぐらい。後は、開幕戦の時に「普段通りに投げることができて良かったです」と発していたのが新鮮に感じたほどだ。
一見、実に機械的で淡泊に感じる言葉も、これが岩崎優の“平常運転”。
ぶら下がり取材が可能だった一昨年までも、登板後は必ずといっていいほど「0点で…」「3人で…」と短く言い残して姿を消していた。
今年1月。故郷の静岡で行っている自主トレを取材した際、頂点への渇望を口にした。
「チームが一番上になるために貢献していくだけです。優勝することしか考えていない。1年しっかり投げることは大前提。それができれば勝手に数字は付いてくると思ってます」
勝ちパターンの一角を担う者として、「0点で抑えること」はリーグ優勝への長い階段を1つずつ着実に上がっていくプロセスに過ぎない。
まだ見ぬ景色にたどり着くまでは淡々と一喜一憂せず仕事をこなしていく。それこそが「8回の男」が抱く矜持なのだろう。
0点で抑えられて良かったです――。
この機械的な言葉が重なっていくほど、チームは目指す高みへと近づいていく。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)