「刺せていない」のではなく…?
記憶を辿っても、なかなか思い出せなかった。
5月13日に甲子園球場で行われた阪神-中日戦。初回の守りで梅野隆太郎は、一死一塁でスタートを切った京田陽太の二盗を完ぺきな送球で阻止した。
ファンの間で定着する「梅ちゃんバズーカ」がさく裂した瞬間。
ただ、思い出せない…。盗塁を刺したのはいつ以来だろうか…。
リーグを代表する捕手の「当たり前の光景」を久々に目にするという不思議な感覚に陥った。
甲子園の記者席からスポニチ記録部の電話を鳴らし、さっそく“調査”を依頼。
すると、実に4月7日の巨人戦で初回に梶谷の二盗を刺して以来、1カ月以上も遠ざかっていたことが分かった。
18日現在で梅野の盗塁阻止率は.250に止まっており、ランキングでもリーグ4位。
トップは中日・木下拓哉の.423で、昨年.333だったことを考えても物足りなさを感じてしまいそうだが、実情は少し違う。
「刺せていない」のではなく「刺す機会がなかなか訪れない」──。
違う角度から見渡せば、2021年の梅野の凄みが見て取れる。
「スタートさせない」という強さ
「22」。これは今季ここまで40試合を消化したタイガースが、他球団から盗塁を企図された数。
12球団最少で、阻止率以前に他球団のランナーは盗塁を敢行できていない事実が浮かび上がる。
スタメン40試合と、そのほとんどの局面でマスクを被っている梅野本人も、確かな手応えを感じている。
「今までより明らかに(他球団からの)企図数は少ないと感じてます。もちろん、自分が刺してアウトを取れたら大きいんですけど、相手に作戦を敢行されないのはバッテリーとしての強みです」
球界屈指の強肩が抑止力になっていることに加え、投手のクイックモーションの徹底など、バッテリーの共同作業も効いている。
今年は投手がけん制で誘い出すシーンも目立つ。今春キャンプでは、例年以上にバッテリー間の意思疎通に時間を割いてきた。
「クイック(モーション)はもちろんですが、間を変えたり、一定にはしないようにしてくれと。(目視でけん制する際に)首の使い方を変えたり伝えることは伝えてきた。ピッチャーもすごく頑張ってくれてる結果だと思います」
言うまでもなく、走塁や盗塁には、膠着した展開を打破し、四球や単打を“二塁打”に変えてしまう力が宿る。
実際、14日から相まみえた巨人は3連戦の間で2度も一・三塁の場面で重盗を敢行。結果的にいずれも三塁走者の生還を許した。すべて僅差だった3試合で特に緊張感を感じる場面だった。
「1個刺したら(阻止率は)まだまだガンと上がると思うので。自分自身は盗塁を刺して貢献したいけど、そこ(スタート)をさせないのは自分にとってはプラスと考えてますね」
単純に“盗塁阻止率”では量れない梅野の存在が、リーグ首位を快走するタイガースの要因の1つであることは間違いない。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)