コラム 2021.07.19. 20:30

日本のオールスターだって面白いじゃないか【白球つれづれ】

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9回全セ無死一、二塁、一前に送りバントを決める中村。投手益田、捕手甲斐 (C)Kyodo News

白球つれづれ2021~第29回・球宴の程好い塩梅


 “夢の球宴”『マイナビ オールスターゲーム2021』が、7月16、17日の両日行われた。

 直前に開催されたメジャーのオールスターは「大谷による、大谷のための球宴」と呼ばれるほど、大谷翔平選手の話題が独占。ホームランダービーから二刀流の本戦出場に注目が集まったため、日本版までかすむ勢いだったが、いざふたを開けてみれば2戦連続1点差の息詰まる熱戦でNPB関係者もホッと胸をなで下ろす思いだったに違いない。

 初戦は先行するパ・リーグ(以下パ軍)をセ・リーグ(以下セ軍)が菊池涼介選手の本塁打などで逆転すると再びパ軍が追いつく白熱戦。最後はロッテの守護神・益田直也投手が押し出し四球を与えて決着がついた。

 第2戦もまたシーソーゲームが展開される。2回に阪神の大物ルーキー・佐藤輝明選手の初アーチで先制を許したパ軍がすぐさま追いつき、逆転するとセ軍も8回に3安打を集めて同点。だが、その裏、地元・楽天から選出の島内宏明選手が決勝の右二塁打を放ちMVPに輝いた。

 今年のオールスターが盛り上がったのは、単に1点差の試合展開だけではない。「楽しくも厳しい」。両軍選手が持てる力を存分に発揮したから魅力あるスター選手による夢の宴となった。


面白味増した2つの味付け


 象徴的なシーンが二つある。

 一つ目はセ軍・原辰徳、パ軍・工藤公康両監督が第1戦で見せた勝利への執念采配である。同点の9回表。連打で無死一、二塁の好機をつかんだところで、原監督は中村悠平選手にバントを命じる。「根底にあるのは勝利を目的とすること」と言う指揮官の期待に応えた中村の犠打は、球宴では91年のパ軍以来30年ぶりの作戦だった。

 これに対して工藤監督も負けてはいない。次打者である近本光司選手を申告敬遠で歩かせて満塁策を指示した。こちらも「勝負となれば負けてはいられない」と最善手を模索している。結果は前述の通り、益田が中野拓夢選手に押し出しを許してセ軍に軍配が上がったが、オールスターではめったに見られない両軍の必死さが好ゲームをさらに際立たせた。

 もう一つはパ軍・松田宣浩選手の際立ったリーダーシップだ。決して今球宴の主役ではないが、ベンチ内の存在感がただ物ではない。チャンスには真っ先に大声を張り上げ、得点をあげれば一番先に出迎える。出場選手の中で最年長の“熱男”が引っ張るから、柳田悠岐選手らも一緒になってベンチを飛び跳ねている。

 日頃はライバル関係にある選手たちが笑いに花を咲かせるのもオールスターならではの光景だが、「勝負に勝つ」という意識が徹底されているからソフトバンクは王者に居続けられるのだろう。


和やかさと勝負の調和


 近年、オールスターゲーム不要論なるものが、一部で囁かれていた。

 交流戦が誕生して、セパの対決構図は十分満たされている。米大リーグのようにオールスターは1試合で十分。こうした声がある一方で、戦う選手たちもお祭りムードが優先され「ストレートだけで勝負」「楽しめればいい」といった風潮が強くなった。そこには勝負に対するこだわりが希薄になっていた点は否めない。

 昭和の時代の球宴は「人気のセ」に「実力のパ」が挑む形が出来上がっていた。日頃、マスコミの露出の少ないパの選手は、ここぞとばかりに目の色を変えて戦った。ベンチの人間模様を見ても、王貞治、長嶋茂雄や野村克也に張本勲といった大御所がベンチ中央にでんと構え、若手選手は隅の方で小さくなっていたものだ。

 時代は変わり、オフの自主トレ仲間や高校、大学の先輩後輩などで集う球宴は和気藹々のサロンと化していった。しかし、今年の球宴は和やかな雰囲気と勝負への厳しさがバランスよく調和していた。ベンチが策を凝らし、選手がそれに応える。だからこそ、見応えのある面白いイベントとなったのではないだろうか。

 山本由伸、吉田正尚、菊池涼介、平良海馬ら侍ジャパンの選手たちが、さすがの実力を発揮した。一方では阪神の佐藤や近本光司選手らは目下、首位を走る勢いを球宴でも見せた。オリックスの杉本裕太郎選手の一発と超美技も印象に残った。

 コロナ禍で2年ぶりに開催された夢舞台。「やれば出来る」野球の底力を次は五輪につなげる番である。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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