虎ひと筋11年目のユーティリティーが受けた「宣告」
スポットライトを浴びることはなくても、必死に駆け抜けてきた11年のキャリアには「渋み」がにじんだ。
各球団で戦力外通告がスタートし、阪神も5選手に来季の契約を結ばないことを通達。その中に、荒木郁也の名前もあった。
明治大から2010年ドラフト5位で入団。
俊足の内野手として期待され、1年目から一軍デビューを果たすも、最後までレギュラーとしてポジションを確立することはできなかった。
それでも、10年以上もタテジマのユニホームに袖を通せたのは、チームでもトップクラスの脚力を持ち、二遊間だけでなく一塁、さらには外野も守れるユーティリティー性を兼備していたからだろう。
現に矢野燿大監督の評価も低くなかった。
2018年まで務めた二軍監督時代から、荒木の万能性に着目していた指揮官。過去には「荒木も今年、二軍でめっちゃ頑張っててん。すごく仕事をしてくれるのよ。だから、ファーム(二軍監督)をやっていて、数字以上の荒木の必要性ってのを感じた。外野もいけますよってなった時にこっちもすごく助かるし、荒木もプラスになるから」と語り、目を細めたこともあった。
1試合の中で1打席はもちろん、出場機会すら確約されていない代走・守備固め要員。それでいて、出番はどれも失敗は許されない局面だ。
本人はそこに生きる道を見出していた。年齢を重ねれば脚力は向上どころか衰えていく中、「しなやかな筋肉に変えたい」と初動負荷理論を取り入れ、数年前から専門のジムに通い始めていた。
「打てばチャンスは増えていくと思う」と、2018年からは同世代の巨人・梶谷隆幸と合同自主トレを敢行。平気で2時間以上もバットを振り続ける仲間に刺激を受け、気付けば自身の打撃用手袋も穴が空くほどボロボロになった。
一瞬の“1プレー”に勝負を懸ける身だからこそ、グラウンド外で与えられた多くの時間を鍛錬に注いだ。
現役続行か、引退か…
「クビ」を覚悟したのは、もう7年前。
「最近、転職雑誌を見始めましたよ」と、冗談とも本気とも判別のつかない言葉を口にして筆者が苦笑いを浮かべたのも最近のことではない。
通告を受けた後、荒木は球団を通じて「一軍に呼ばれることはなかったので、自分の中で当然覚悟はしていたので驚きはしていないです」とコメント。
「実績は残せなかったけど、鳥谷さんや福留さんと一緒に野球をすることができたのは凄く良い時間でした。タイガースファンの方々の応援の熱というのは凄く感じましたし、その応援の中で甲子園でプレーさせてもらえたことは本当にありがたかった」と、その背に受けた歓声にも感謝した。
現役続行か、引退か…。今後については熟考の上、決断を下すつもり。
1年、1年、つなぎ止めてきたような道にも、振り返れば全力疾走の“足跡”がはっきりと残っていた。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)