クライマックスシリーズの名場面・珍場面
プロ野球の2021年シーズンもいよいよ大詰め。
10日からはクライマックスシリーズのファイナルステージが幕を開け、各リーグの日本シリーズ出場チームが決する。
2004年から2006年までパ・リーグで実施された「プレーオフ」にはじまり、2007年からはセ・パ両リーグで「クライマックスシリーズ」がスタート。絶対に負けられない短期決戦の中で、過去にはさまざまな名場面や珍場面が誕生した。
そこで今回からは、日本プロ野球の“ポストシーズン”に絞っていろいろな切り口からエピソードをご紹介。
まず取り上げたいテーマが、「CS男と逆CS男の明暗」だ。
田中広輔が「神ってる」!
2016年、セ・リーグは新主砲・鈴木誠也の“神ってる”活躍ぶりで快進撃を見せた広島が25年ぶりのリーグ制覇を達成。
迎えたクライマックスシリーズでは、核弾頭の田中広輔が“神ってる”の呼称を独り占めにするような大暴れを見せた。
まず第1戦で3の3、1打点・1四球と打率も出塁率も10割というロケットスタートを決めたのがすべてのはじまり。
第2戦も初回に先制点を呼び込む二塁打を放てば、8回にはダメ押しの右越えソロ。2本の長打を放って、3打数2安打、1打点・1四球を記録してみせる。
その後も勢いは止まらず、チームが初黒星を喫する第3戦でも3打数3安打で1四球と全打席出塁。3試合の通算打率は実に.889となった。
日本シリーズ進出に王手をかけた第4戦も、初回に11球粘って四球をもぎ取ると、打者一巡して回ってきた2打席目も6点目となる適時打。3回の四球を挟んで5回二死二塁のチャンスでもレフトに適時打を放ち、なんと打率を.909まで上げた。
残念ながら8回の5打席目は空振りの三振に倒れ、最終的には12打数10安打の.833でフィニッシュ。打率9割を切ってしまったが、これはもちろんCS史上最高打率である(※これまでのCS記録は2010年の巨人・小笠原道大が記録した.750)。
文句なしで最優秀選手に輝いた男は、「自分でも怖いくらい出来過ぎだった」と回想。緒方孝市監督も「神ってたよね。過去にあんな選手いないでしょ。彼がこのステージのキーマン」と最高の賛辞を贈った。
しかし、その先の日本シリーズでは25打数4安打の.160と別人のように当たりが止まり、チームも日本一を逃す。
バットが打ち出の小槌に見える“至福の時間”は、長続きしないのがお約束のようだ。
60打席連続無安打の「逆CS男」
田中とは対照的に、ポストシーズンで足掛け3年にわたって無安打を続けたのが中日・谷繫元信だ。
2010年の日本シリーズ第7戦、4打席目に左安打を記録したあと、5打席目・6打席目とつづけて凡退。翌年のCSと日本シリーズでは43打席無安打に終わり、日本一を逃したことから「オレが1本打っていたら…」と悔やんだ。
ところが、谷繁の試練はまだ続く。
「1打席でも早く無安打記録を終わらせたい。ここ(年明けの自主トレ)で話すことで、“あいつ、タコだったんだ”と周りが思い出してもいい。とにかく早く途切れさせたい」と必死の思いで臨んだ2012年のCSも、ヤクルトとのファーストステージ3試合で12打席無安打と快音が聞かれず、通算57打席連続無安打となってしまう。
その後の巨人とのファイナルステージ第1戦も、1打席目から遊ゴロ・三振・二ゴロと凡打を繰り返し、ついに60打席連続無安打に(=うちCSは34打席。10年のCSを含めると通算41打席)。
だが、2-1の9回一死一塁。4度目の打席に立った谷繫は、山口鉄也からヒットエンドランによる左翼線への適時二塁打を放ち、ポストシーズン61打席ぶりの安打を記録。ようやく長いトンネルを脱出した。
「食らいついていった。(取材の)皆さんからやっと解放されました。明日の新聞(報道)は我慢しますけど。ガハハ」と破顔一笑した谷繫は、第3戦で2安打・2打点を記録するなど、22打数5安打・4打点と復調したが、皮肉にもファイナルステージで敗退…。
これが現役最後のポストシーズンになった。
「勝ち運」に恵まれなかった内海哲也
最後は“逆CS男”と呼ばれた投手を紹介する。巨人時代の内海哲也だ。
巨人4年目、2007年のファイナルステージ。中日との第1戦でポストシーズン初先発初登板をはたした内海は、1回・2回と続けて満塁のピンチを招く不安な立ち上がり。前夜は午後8時に寝床に入ったのに、緊張から「午前4時まで寝つけなかった」というから無理もない。
3回も2四球と味方のエラーで二死満塁としたあと、谷繫に先制の2点適時打を許し、4回にはタイロン・ウッズに右越え2ランを被弾。4回4失点でマウンドを降り、「情けない。大事な試合で自分の投球ができなかったのが悔しい」とガックリ。初戦を落とした巨人は3連敗で敗退し、シーズン1位ながら日本シリーズ進出を逃した。
翌年もまた、内海は勝つことができなかった。
日本シリーズに王手をかけたファイナルステージ。再び中日との第3戦で先発したが、和田一浩に2ランを浴びるなど、5回3失点で降板。試合は延長12回5-5で引き分け。
3度目の登板は2010年のファイナルステージ。これまた中日との第2戦。前日の第1戦をエース・内海でいくと見せかけて、東野峻で意表をつく奇襲作戦だったが、この日の内海は投手の吉見一起にタイムリーを許すポカもあり、打線の援護もなく、6回2失点で負け投手に…。初戦からの連敗が祟り、巨人は3年ぶりのCS敗退となった。
その後、内海は2011年のファーストステージ・ヤクルト戦の第2戦でようやくCS初勝利を挙げたが、2014年のファイナルステージでは、阪神との第1戦で初回にわずか8球で3点を失うなど、通算1勝4敗(ファイナルは0勝4敗)と勝ち運に恵まれていない。
来季も西武でプレーする内海だが、現役晩年にもうひと花咲かせて、逆CS男を返上することができるだろうか。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)