“想定内”のスロースタートから見事に立て直す
どれだけ打撃のことを考え抜いて2月を迎えたか、手に取るように伝わってくる。
日南1次キャンプのわずか13日間で、広島・宇草孔基の打撃の質が明らかに変わっていった。
春季キャンプの序盤は、打撃投手相手でも会心の当たりが少ないように見えた。
捉えきれずに球をこすったようなファウルや、捕手側にポイントを引き寄せすぎる打撃も目についた。
キャンプ3日目には、フリー打撃で投手と対戦。制球が安定しなかったケムナ誠が相手だったとはいえ、計21球で安打性0本。逆方向への打球が多く、強く引っ張る本来の打撃は影を潜めていた。
ただし、その状況にも焦りは見られなかった。むしろ想定の範囲内のように見えた。
序盤は打撃内容が良くなったのでは…と問うと、宇草は何度もうなずき、その理由を説明する。
「こうやって打ちたい、こういう打撃ができる選手になりたいというのが自分の中であって、それをオフから取り組んできたけど、投手が投げる球を見ていなかったので実戦でタイミングのズレがあった。それを承知の上で、まずは自分のやりたいことをやろうと。強いスイングをしていってどうなるかを見ていきながら、やっぱりずれているな…と感じた」
目指している理想の打撃とは何か──。
端的に表すと、「強い打球をいい角度で打つ」ことだと言う。
俊足が持ち味ながら小さくまとまることなく、パンチ力のある打撃を兼ね備えている。
その力強さを生かすために、まずは思い切り強振を続けた。そこから実戦でタイミングよく振れるような形を目指して徐々に変化を加えていった。
そして第3クールの紅白戦2試合では計6打数3安打と結果を残し、2戦目では三塁打を2本を放った。わずか数日間で投手の生きた球に反応できるまでに修正したのだ。
「下半身と背骨で粘りながら“ガーン!”」
沖縄2次キャンプからは、対外試合が始まった。より打席の中での対応力が求められることになる。
昨季は追い込まれると変化球中心に攻められ、打撃フォームを崩れされて三振する場面が目立った。
自身も「課題は低めの落ちる球。そこを攻められることは分かっている。いかに我慢できるか」と分析する。
この弱点を克服するカギは、“体の使い方”にあると言う。
「いままでは変化球をポンと当てにいくことが多かった。直球のタイミングでフォークが来たり、その逆もある。そこを対応するためには(狙い球の)セッティングだけではなく、体の使い方も大事。下半身と背骨で粘りながら“ガーン!”と打ちたい」
「ガン!」ではなく、「ガーン!」である。「ー」の分だけ間(ま)や粘りがある。
そうして球を少しでも長く見ながら、体に巻き付けるようしてバットを出していく。体を正しく連動させることで下半身も安定し、変化球に崩されることなく自分のスイングで対応できる。
この理想を追い求めて、今オフは体づくりにも時間を割いた。
「身体の機能がダメだったら、イメージしている打撃もできない。身体が良くなっていけば、打撃の感覚が良くなることもあった。全部がつながっているのだなと改めて感じる」
昨年12月と年明け1月は、大リーグ移籍を目指す鈴木誠也との合同練習に励んだ。その最中にはこう口にしていた。
「誠也さんは取り組む姿勢からして違うじゃないですか。語弊があるかもしれないですけど、誠也さんがいなくなった環境に慣れないように僕自身がしていかないといけない」
これまでは妥協なく打撃を追求する鈴木の存在が背中を押してくれていた。
そんな練習の鬼が隣にいなくても、宇草は一人で十分に追い込み、日々打撃を修正し続けている。
このストイックさは、師匠の鈴木と重なって見える。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)