コラム 2022.04.25. 07:08

広島・床田寛樹を復活に導いた「偶然の発見」と「指揮官の教え」

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広島・床田寛樹 (C) Kyodo News

やけくその一投がヒントに


 広島・床田寛樹の変身の秘密は、手先の器用さにある。

 球界でも滅多にいないパームの使い手であることが、その証明である。




 パームは大学3年までの持ち球だった。

 ただし、大学4年でツーシームを習得したことをきっかけに、同じような軌道を描くパームを投げることはなくなったと言う。

 その落ち球を、どん底で思い出すことになる。



 昨季は春先から調子が上がらなかった。

 シーズン初登板だった3月31日の阪神戦で白星を挙げてから7試合連続未勝利。5月下旬に降格すると、約3カ月間も二軍から抜け出せなかった。


 二軍でも状態は一向に変わらない。

 ウエスタン・リーグの登板ですら5試合連続で4失点以上するほどの大不振。直球、ツーシーム、スライダー、カーブなど全ての球種を二軍の打者に弾き返された。

 マウンド上で滅多打ちに遭いながら「もう投げる球ないわ……」と諦めかけていたその時、不意に思い出した。

 捕手からのチェンジアップのサインを無視し、球を親指と小指の付け根あたりで挟んだ。


 「球速も遅いし捕れるやろ」と予告なしにパームを投げたのだ。もう、やけくそだった。

 打者の反応は予想外だった。全ての球種に対応していた相手が、この遅球にだけはタイミングを外されていた。

 この偶然の発見が、その後の再生へとつながっていく。


「小手先で投げるな」


 昨年8月下旬の昇格後、1試合に数球程度パームを投じて打者の反応を見た。

 一軍相手にも通用することを確信すると、今春中に勝負球として利用できるまでに磨いた。

 「相手が慣れるまでは使えるのではないかと思っている。最初は探り探りだったけど、いまは決め球として使えるという自信もついています」

 今季初登板の3月30日の阪神戦では、82球中9球(11.0%)でパームを投じて7回1失点の好投。6回1失点だった4月13日のヤクルト戦では107球中15球(14.0%)を投じて配球の割合を増やしたかと思えば、同20日の巨人戦では打者1巡目に1球しか見せず、遅球を警戒していた相手を惑わせた。


 今季登板4試合で2勝0敗、防御率1.65。パームが好調を支えていることは間違いない。

 進化した変化球は、パームだけではない。今春のキャンプ中には佐々岡監督に頭を下げて、カーブの投げ方や握り方を聞いた。

 「元々カーブは投げていたけど、最後にもう一個落とせるような回転をかけられていなかった。監督に握りを教えてもらって、縦の回転を与えるイメージで投げるようになってから変化もよくなった」

 ツーシームなど軸とする変化球が曲がらないと、そのまま崩れていた昨季までの姿は見当たらない。

 4月13日のヤクルト戦ではツーシームが不調と判断すると、試合途中からカーブの割合を増やして修正する投球術を見せた。

 さらに、オープン戦では持ち球になかったカットボールも試すなど、投球の幅は広がり続けている。


 それでも、床田は「何よりも直球がいい」と言い切る。

 佐々岡真司監督からは口酸っぱく「小手先で投げるな」と言われ続けてきた。

 変化球でかわすような投球はやめなさいという意味。直球が走っていなければ変化球も生きないことは、昨季の不振で学んでいる。

 首脳陣から潜在能力の高さを認められながら、昨季までは先発に定着しきれなかった。

 今季は変化球が多彩になった上に直球のキレも極上。今年が覚醒のシーズンとなる条件はそろっている。


文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)
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