最終回:歯がゆい戦いはまだまだ続く
BIG BOSSは、積極的な仕掛けを好む。直近のゲームでも動きに動いた。
23日のソフトバンク戦。初回一死一・二塁から4番の野村佑希選手にヒットエンドランのサインを出す。結果は見事な右前打で幸先よく先制するが、さらに一・三塁のチャンスでも石井一成選手に連続ヒットエンドランを命じたが、今度は空振りで、三走の近藤健介選手が三本間に挟まれて憤死。
26日のオリックス戦では、4回一死一・三塁からダブルスチールを敢行して、相手の絶対的エース・山本由伸投手の攻略に成功する。だが、延長戦にもつれ込んだ10回には二番手の北山亘基投手が、ピンチの場面で無人の一塁に牽制球を投げて傷口を広げた挙句、決勝点を奪われている。
野球のセオリーから言えば、4番の野村にはじっくりと打たせる場面だが、指揮官は練習時からバットが最短距離で出ていない野村を観察、あえてコンパクトに対処できるヒットエンドランの策を講じたと言う。好投手・山本から得点を上げるには、大胆な重盗もうなずける。
一方で、ヒットエンドランのサインで空振りは御法度、石井の力量不足を指摘されても仕方ない。さらに、北山の一塁暴投は「サインプレーの中で起こった」と言う。前進守備に走った一塁手の清宮幸太郎選手か、北山のいずれかのサイン見落としが原因だが、緊迫した場面でルーキーに込み入ったサインが適切だったのか、悔やまれる敗戦となった。
ベンチが動くことで活路を見出すこともある。逆に動き過ぎて墓穴を掘ることもある。勝負は結果がすべて。27日現在(以下同じ)、4連敗で借金は10まで膨らんだ。
日替わりオーダーに奇襲、奇策。ある意味でBIG BOSS流采配は一貫している。27日のオリックス戦の敗戦後も「こういうゲームを必ずモノにしていくチームにするから見ていてくださいな」と広報を通じてコメントを残した指揮官に暗さはない。
「1年間、トライアウト」と公言して数多くの選手を起用し続ける。4番を任された清宮が翌日は先発から外れ、9番を打っていた万波中正が4番に座ることも珍しくない。
「目先の1勝より成長」の言葉は、確かに松本剛選手の飛躍的な成長や万波、石井、宇佐見真吾選手らの打撃面の進歩に表れている。
あと一歩のところで、勝利に結びつかないのは個人の力の差なのか? だからBIG BOSSはその穴を動くことで補おうとしているのか? 歯がゆい戦いはまだまだ続きそうだ。
楽しみな材料は増えたが不安要素も多い
「スクラップ&ビルド」。日本ハムの現状はこの一語に尽きる。解体的な出直しを球団が選択したからだ。
中田翔の退団に続いて、シーズンオフには西川遥輝、大田泰示らの看板選手を相次いで放出。誰が見ても戦力層の薄さは明らかだが、23年の新球場開場を機に新たな魅力あるチームに作り直す必要があった。
元々、日本ハムは他球団以上にフロント主導のチーム運営を続けてきた。トレード、外国人獲得などの編成権はフロントにあり、監督は与えられた戦力でやりくりするのが仕事。新庄監督誕生時にも稲葉篤紀GMから大きなチーム改造と育成方針が伝えられている。
本来なら、チームとしての「戦力お試し期間」はオープン戦まで。シーズンに入ればレギュラークラスは固定して戦うものだが、新庄ハムはまだチーム内の「スクラップ&ビルド」を継続していかなければならないのが現状だ。
開幕から1カ月。楽しみな材料は増えたが不安要素もまだまだ多い。特に投手陣の整備は急務である。チーム防御率はリーグ最下位、特にルーキーの北山に任せてきたクローザーは、北山の疲れもあり不在の危機にある。
「ファンに愛される野球」を目指し、近い将来には「7~8人のスター選手を作りたい」と就任時に語ったBIG BOSS。
3年連続Bクラスに沈むチームの再建は容易ではない。だからと言ってこのままズルズルと後退していくわけにはいかない。
まずは、最初の正念場が5月に訪れようとしている。動く指揮官の次なる一手が見ものである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)