日本で身につけた“小技”
「安定の」「安心の」……。
そんな形容詞を何度も使いたくなってしまうのが、虎の新助っ人アーロン・ウィルカーソンだ。
なびく長髪とワイルドなひげ面から豪球を投げ込むタイプと思いきや、マウンドでは140キロ台のストレートにスライダー、チェンジアップ、カーブを織りまぜて的を絞らせない技巧派の長身右腕。
コロナ禍でキャンプに参加できず、来日は3月までズレ込んだものの、4月16日のジィアンツ戦で来日初登板初先発。6回3安打1失点の好投で、いきなり初勝利をマークした。
以降も好投を続け、ここまで登板した5試合すべてで5回以上を投げて失点は2点以内。前回登板の5月15日・ベイスターズ戦でも6回5安打1失点の力投で2勝目を手にしている。
その横浜での試合では、日本で身につけた“小技”が自らを救った。
3度立った打席で2度の犠打に成功。特に5回は一死一・三塁で初球を一塁方向へ転がすセーフティースクイズを決め、リードを5点に広げる貴重な追加点を叩き出した。
苦労人が目指す日本での成功
「もっとうまくなっていかないとね」
そう笑顔で話していたのは、4月のデビュー戦で勝利投手となった翌日だった。
クールダウンを早々に終えると、その足で通訳とともに甲子園の一塁側に置いてあるマシンの前にバットを持って立った。
時間にして30分以上もバント練習を敢行。その間、コーチや野手陣の助言にも耳を傾ける姿も印象的だった。
聞けば、米国時代は先発登板の前日に行われる打撃練習の中で数えるほど行うのみだったという。日本に来て、スキルアップの必要性を感じ取ったのだろう、そこから“猛練習”が始まった。
通常の試合前練習を終えると、バットを手に室内練習場へ消える姿を同僚が何度も目撃。断言はできないが、コツコツと地道にボールを転がす姿が思い浮かぶ。
そんな努力の賜物が、ベイスターズ戦での2犠打。いずれも初球に成功させている。
「メジャーで1本ホームランを打っているということがある意味邪魔していて、ホームランを期待されることはあるんですけど。打席に立つ以上は三振だけしないように心がけて。バントはもちろん転がせばいいですし」
2019年には、救援登板後の打席で左翼スタンドへメジャー初本塁打を叩き込んでいる“スラッガー”。「9人目の野手」としても、しっかりと日本に適応している。
メジャーでは目立った成績を残すことができず、大学時代には食品会社の冷凍食品部門で夜間労働に従事したこともある苦労人。
労を惜しまない助っ人の存在とその奮闘は、チームに白星以上のポジティブな要素をもたらしそうだ。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)