6月連載:球界の「投高打低」現象を読み解く
ロッテ・佐々木朗希の完全試合、ソフトバンク・東浜巨のノーヒットノーランに、中日・大野雄大の“完全未遂”10回1安打完封。今年の球界には「投高打低」現象が吹き荒れている。
防御率1点台の投手が5月末時点でセパ併せて8人。投手の力量が飛躍的に上がったのか? それとも打者の技量が落ちているのか? いずれにせよ、今季のペナントレースは投手上位で覇権を争うことになるのだろう。
4月11日に出稿した「白球つれづれ」では「パ打者の悲鳴が聞こえる」と題して投高打低を占ったが、あれから約2カ月。止まらない現象の本質に迫ってみたい。
第1回:異例とも言える“投高打低”シーズンの原因とは?
セパ交流戦が行われた5月31日。投高打低現象を如実に表す記録が示された。全6ゲーム中4試合が完封試合で、全ゲームの総得点15は、12年9月の同14得点に次ぐ史上2番目の少なさだ。いかに、投手がゲームをコントロールしているか。今季の特徴がよく表れた1日となった。
同日時点(以下同じ)の投打の成績を見れば、投高打低は一目瞭然である。
セの投手では阪神・青柳晃洋と同じ阪神の西勇輝が防御率1点台で並ぶが、パでは1位のオリックス・山岡泰輔から6位の楽天・田中将大まで1点台がズラリと顔を揃えている。
逆に打者に目を転じるとセで3割台はDeNA・牧秀悟ら3選手だけ。パも日本ハム・松本剛の.386の高率は目を引くが同じく3割台は3人。それだけではない。セ打撃成績20位のヤクルト・山田哲人は.253の打率に対して、パ20位の西武・外崎修汰は.222の低率。1割台にあえぐ打者もセはゼロに対してパは3人もいる。
パの投手成績上位6人の中には佐々木、千賀滉大(ソフトバンク)や山本由伸(オリックス)ら球界を代表する剛球派ばかり。これでは数字が上がらないのもある面、納得するしかない。
だが、それだけが投高打低の原因なのだろうか? 各チームの戦いを見て来ると違う要因も見えて来る。それが主力の戦列離脱者の多さだ。
思いつくままに名前を挙げていく。
巨人の坂本勇人選手は左脇腹のケガで開幕を出遅れ、その後に右膝靱帯損傷で戦列離脱。ヤクルトの主戦捕手・中村悠平選手も下半身コンディション不良で出遅れ。DeNAに至っては開幕直後からエースの今永昇太や牧、戸柱恭孝、宮﨑敏郎、佐野恵太各選手らが故障やコロナ禍でチームを離れている。
パでも前年優勝のオリックスでは主砲の吉田正尚選手がコロナ禍で抹消後に大腿部の筋損傷で再び戦列離脱。T-岡田選手もふくらはぎ痛で出遅れ、打線に迫力を欠いた。楽天もコロナ禍で4月のソフトバンク、オリックス戦が中止に追い込まれている。
ある関係者はコロナと故障者の関係をこう語る。
「オフのトレーニングの取り組みにも影響はあったはず。例年なら集団で動けるが、コロナの時代は移動から食事時まで制約がかかる。おのずと練習の強度にも影響はあったはず」。
故障にもいくつかの原因はある。しかし、今年の特徴は筋肉系の損傷やコンディション不良と言った調整の失敗が目につく。このあたりにコロナ禍との関係も見え隠れしているのではないだろうか。
日本人選手だけでなく外国人選手にも戦列離脱者は多い。
ヤクルトのドミンゴ・サンタナ選手やDeNAのタイラー・オースティン選手は故障で帰国、阪神のジェフリー・マルテ選手は右ふくらはぎ痛で一軍から姿を消している。チームの命運を握る助っ人たちの打棒が振るわなければ打線の迫力は欠く。
巨人・坂本の穴は2年目の中山礼都選手が、自打球を当てて戦列を離れた西武・源田壮亮選手の後任に育成出身ルーキーの滝澤夏央選手が抜擢されて気を吐いている。それでも不動のレギュラーが欠けた分だけ戦力ダウンは明らかだ。これもまた投高打低に拍車をかけている要因だろう。
ロッテの佐々木に代表される160キロ台の快速球が増えれば、打者は当然苦しむ。しかし、一方で投手の技量が上がれば、打者もそれに打ち勝つ方法を編み出して来た。今年の投高打低現象が一過性のもので終わるのか?
例年なら投手に疲れの見え出す夏場は打者優位の季節となる。さて、夏の陣の変化も見逃せない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)