「チームの力になれた気がした」
竜門の滝を登り、竜となって天をかけるかもしれない。
2020年の育成ドラフト2位で入団し、春先に支配下登録された中日・上田洸太朗。プロ5度目の登板は、8月21日のヤクルト戦(バンテリン)。5イニングを無失点に抑え、裏の攻撃で代打を送られると、その代打・平田良介が先制適時打を放ち、勝ち投手の権利をゲット。終盤に味方の失策絡みで同点に追い付かれ、初勝利とはならなかったが、先発陣に1枚、期待の19歳が加わった。
初めて同じチームと対戦し、初めてチームが勝利した。プレーボール直後、まず対峙したのは山田哲人。プロ初登板となった5月12日の神宮で、初めて適時打を許した相手を、低めの変化球で空振り三振に仕留めた。
二死二塁では、球界を代表するスラッガー・村上宗隆を相手にする。対戦時点でシーズン44発の長距離砲に、立て続けに内角へ投げ込む。
「持ち味だと思っているので、サイン通り投げました」。結果は四球。「投げられたのがよかったです」と前向きにとらえた。
5回まで投げて被安打3、奪三振7の無失点投球は立派。勝ち投手の権利を初めて得たし、登板日にチームが初めて勝った。
「自分が投げた試合でリードできたのはよかったですし、勝ったのがよかったです。チームの力になれた気がしました」
首位チーム相手に無我夢中で投げて奮闘。自信を得た。
立浪和義監督は「ヤクルト相手に5回ゼロですから。右打者へのカットは(相手打者にとって)邪魔になっているのかな、と。そこがあるので外のチェンジアップやツーシームで空振りが取れる。時折、ボール球が続くけど、投げるたびに成長している」とコメント。高評価した。
滝を登って竜になる
若手竜党のひとりは、コイの名産地で育った。
富山県高岡市(旧・福岡町)出身。「人が温かいところ。自然に囲まれています」。菅笠(すげがさ)の生産は全国シェア9割を占め、コイの養殖が盛んだ。
コイは学校給食でも提供される「親しみ深い」食材とのこと。味はタンパクで、料理法により、さほど臭みもないのだとか。
実家は給油スタンドを営む。幼少期からドライブで、県内外へ連れて行ってもらった記憶は鮮明だ。
高校に愛知・享栄高を選んだのは「プロのスカウトの目に触れやすい地域へ行きたかったからです」という。
迎えた2020年のドラフト会議。中日から1位で指名を受けたのは、同じ愛知でしのぎを削った髙橋宏斗。自身は育成2位だった。
「大学や社会人に進んで、3~4年後プロに行けるかというと、分からないという思いがありました」
大学球界や社会人で技術を磨いて上位指名を勝ち取るよりも、プロの世界に飛び込んで一流を知り、トッププレーヤーから学ぶ選択をした。
マイペースでもの怖じしない19歳左腕。滝を登れば、コイは竜となる。コイを食べて体をつくった上田が、球界最下層から好位置へ昇っていく。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)