コラム 2022.10.14. 07:08

現役選手がゲームを監修…平成最強捕手・古田敦也こだわりの逸品『シミュレーションプロ野球』

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あの名捕手が現役時代に監修したゲーム…!?

野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第14回:シミュレーションプロ野球


 YouTubeが存在する前、野球評論家やプロ野球選手はどんな“副業”で稼いでいたのだろうか? 

 70年代に4年連続2ケタ勝利を挙げたヤクルトの安田猛は、京橋のスーパー明治屋でアルバイト。エース格でお金に困っていたわけではないが、「働く尊さとおカネのありがたみが身に染みて分かるようになる」という恐ろしく真っ当なコメントを当時の『週刊ベースボール』に残している。




 他にはCM含むテレビ出演、飲食店の経営、講演会やデパートでのサイン会といった王道のものから、意外なジャンルに「ゲーム監修」がある。

 ファミコンで89年12月19日にヘクトから発売された『エモやんの10倍プロ野球 セリーグ編』は、当時42歳の人気野球解説者・江本孟紀が監修を務めた。

 パッケージのイラストはもちろん、説明書でも“エモヤンの10倍野球セミナー”や、“エモヤンのワンポイント・アドバイス”が紹介される怒涛のエモヤン押し。ソフト価格は強気の9700円、説明書は64ページの豪華小冊子仕様とバブル好景気の残り香を感じることができるが、その中の本人直撃インタビューでは真面目にサウスポーの有利性を説いている。

 「野球はダイヤモンドを中心として、左周りのスポーツなんです。まあ、それというのも右利きが多かったためなんですけど。そのなかで、少数派の左利きが有利になるのはあたりまえなんでしょうけれど」

 サウスポーの語源は、アメリカで南部出身者の投手に左投げが多かった説。陽よけにベースの方角を決める球場の構造上、左投手の手が南から出てくるから説もあるらしい。

 なるほど。でも、いったいこのウンチクがゲーム監修とどう関係があるのだろう……と思ったら、やはりエモヤントークはほとんど制作の参考にはならなかったという。


 なお、このゲームに登場するのはセ・リーグをモデルにした6球団のみだが、ダイコンズ、Gジャンズ、カッポレズ、ウェーブス、スマイルズ、タイヤースという絶妙なチーム名とロゴデザインのクオリティは、ファミコン野球ゲーム史上屈指と称される。

 だから、それゲームそのものにあまり関係ないよね? と思う間もなく、打撃はスイングのタイミング(フリー、速球、変化球)を決め、“エモスコープ”でコースを読んでAボタンを押す独特な仕様。って、それ元ネタは思い切り“野村スコープ”なんじゃ……なんて真っ当な突っ込みは野暮だろう。

 なお、制作陣は野球中継を食い入るように見ながら選手データを解析したため、当時ほとんどテレビ中継がなかったパ・リーグは収録されていない。




ノムさんに代わる監修に抜擢「代打・古田」


 発売元のヘクトは『燃えろ!!プロ野球』を作った関雅行氏が、ジャレコから独立して設立。ヤクルトファンの関氏は野村克也のロジカルな解説が好きだったという。

 いつか、ノムさんの監修でゲームを作りたい。でも、社員からは暗すぎて売れないと反対されていた。

 ならばとその愛弟子で売り出し中だった若い古田敦也に監修をオファーして、世に出たのが95年4月28日発売のスーファミソフト『シミュレーションプロ野球』だ。





 投打ともにアクション性を排除し、プレーヤーが配球や狙い球を指示する大人の野球ゲーム。95年度新オーダーで12球団384名の選手が実名で登場し、古田のアドバイスも加わった打者の得意コースや打球特性、投手の持ち球や投球パターンがリアルに再現された。

 130試合のペナントレース制、99試合目までならどこからでもスタートできる本格派SLGだったが、いかんせん定価1万2800円という強気な価格設定は子どもたちにはハードルが高すぎた。対戦モードも将棋の読み合いのようで配球の知識と根気が必要だ。

 だが、それも想定済みだったと関氏はのちにゲーム雑誌『コンティニュー』のインタビューで明かしている。

 「(エモやんの10倍プロ野球から)あえて、アクション要素を削っちゃったと。最初は欲張って、客層を広く取ろうとしたんだけど、野球のマニアにしぼったんですね」


キャンプでゲームをやりこんだ最強捕手



 そして、ゲーム世代の古田はガチだった。

 神宮のクラブハウスで打ち合わせをすると、制作側が要求するものに正確に答えを出してくる。ユマキャンプにも試作品を持参して、海の向こうから感想をFAXしてくれたという。

 例えば、93年8月発売のスーファミソフト『ヒューマンベースボール』では、パッケージ裏面に阪神や大洋で活躍した「監修:加藤博一」のコメントと顔写真が掲載されているが、何をどう監修しているのかユーザーにはいまいち謎だ。

 対照的に『シミュレーションプロ野球』は、オープニング映像登場に加え、説明書では写真に突撃インタビューと怒涛の古田仕様。ユマキャンプで指を骨折して時間があり、長話ができるから外に行きましょうとインタビューをやりながら撮影した肉声や写真も、本作には収録されている。


 「最初にお話を聞いたときに、おもしろい企画だと思いました。バッターとバッテリーの駆け引きが本当にできるのかな、と思いましたけど、ボクの知識が活かせるんなら、と思って引き受けました。若い選手たちも最初はただ夢中になってやってましたけど、こうしたらいいとか、ずいぶん注文が入りましたよ」(「シミュレーションプロ野球」取扱説明書より)
 
 なんと、古田は1年近く企画に付き合い、その試作品に対してチームメイトまで間接的に意見を言っていたのだ。他の名義貸しのような監修とはレベルが違う。

 ちなみに、現・ヤクルト監督の高津臣吾や現・楽天監督の石井一久など、チーム内にはゲーム好きも多かった。本作には当時のヤクルトスワローズ、野村ID野球の真髄があると言っても過言ではない。

 いや、それは言いすぎなんじゃ……と思いつつ、今は指導者として、コンディション維持のためスマホゲームはほどほどにしろと若手を𠮟る、あの元名選手たちも昔は生粋のファミコンブラザーズだったのである。

 ちなみに、このソフトが発売された95年の古田はプロ6年目。打率294、21本塁打、76打点の働きで130試合にマスクを被り攻守でチームを牽引、野村ヤクルトも日本一に輝いた。


 本作のひとつのウリが「テレビを観るような感覚でゲームを見る」だ。

 CPUのワンパターンな選手起用に突っ込みつつも、自動で進むオートモードでポリンキーをデカビタで流し込みながらまったり観戦したユーザーも多かった。

 令和の今、本作を遊ぶと不思議な感覚にとらわれる野球ゲームだ。淡々と異様に静かに時間が流れていく。シンプルだが、主張は強い。

 かと思えば、「ナイター中継のディレクターの気分が味わえる」をコンセプトにY・B・Aボタンでカメラのアングルをそれぞれのベース寄りに変えることができたり、Rボタンのスローモーションでストライク判定をじっくりと確認することも可能だ。

 早すぎたひとりリクエスト制度を堪能し、説明書ではそれらの機能を駆使した「内野守備のフォーメション研究」を勧めている。言葉の意味は分からんが、とにかくすごい自信だ。

 いつの時代も、その作り手の本気の熱はユーザーに伝わる。すべての表現者は舞台で照れたら負けだ。

 『シミュレーションプロ野球』は目論み通りに一部のマニア層から支持され、スーファミでの続編だけでなく、プレステ版やWindows版も発売された。

 “平成最強捕手”古田敦也。ID野球の申し子は、キャッチャーのイメージだけでなく、野球選手のゲーム監修の概念も変えたのである。


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

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