「ファーストペンギンになる」
前クールは「六本木クラス」、今クールのドラマは個人的に「ファーストペンギン」がイチ押しだ。
奈緒演じるシングルマザーが、知識も経験もなかった漁業の世界に飛び込み改革に挑んでいくストーリー。堤真一など脇を固めるキャストも豪華で惹きつけられる。
こんなドラマが放送されることも知らなかった8カ月前、タイガースの春季キャンプが行われていた沖縄・宜野座で「ファーストペンギンになる」と口にしたのが、今年ブレイクを果たした浜地真澄だった。
そもそも「ファーストペンギン」とは、勇気を持って行動する先駆者の人物や、企業に対して尊敬を込めて呼ぶ言葉。ペンギンは集団行動をするものの、リーダーが不在のため狩りなどで海に飛び込む“1羽目”に他が追随する習性があるという。
チーム恒例の1日キャプテンを務めた浜地は、そんなエピソードを引き合いに出し、ナインへ向かって「狩りに出るとき最初に勇気を持って確認するファーストペンギンのようにリスクを負って。失敗や怖い思いはあるが、挑戦することに意味はある」と声を張った。
「最初から人に聞くことはしたくない」
そんな失敗を恐れない精神が、今季一軍で結果を残せた要因のひとつなのかもしれない。
もともと、主な球種は直球とカットボールの2つだけ。以前はパームなどにも挑戦していたが、試合で投じる割合は極めて少ない。
一軍のブルペンで居場所を確保しつつあった6月。疲労が蓄積し、自慢の直球の質が落ちていた。
「正直、今のまっすぐはベストではないですね……」
苦悩を明かしていたが、戦っているのは一軍の舞台。迷っていても試合、出番はやってくる。そこで“応急処置”として手を加えたのが持ち球のカットボールだった。
捕手からのサインは一緒でも、自身の感覚の中で球速を落としたり、曲がりを小さくしたり、対峙する打者や試合の状況ごとに数種類投げ分けると結果も伴った。
状態が悪い時にいかに抑えられるか。自己最高の1年への道はこの時切り開かれた。
「状態が良くない時、連打を浴びた時に抑えられているのはすごく自信になっています」
周囲には経験豊富な先輩たちがいるものの、6年目の23歳は「最初から人に聞くことはしたくないので」と言った。
リーグ屈指の陣容を誇るブルペン陣の中で、いつ二軍降格となってもおかしくない立場。結果がすべての一軍で、リスクを恐れず、自力で一歩前に踏み出した。
試行錯誤しながらシーズン完走
その先に待っていた52試合登板、防御率1.14というキャリア最高の景色。氷の上から海に飛び込んで手にした収穫は少なくなかった。
日頃から気づいたことはノートに書き込み、「素人でもプロでも関係ない」とYouTubeなども参考に様々な角度から技術向上への知見を蓄積している研究家の顔も持つ。
失敗を恐れない姿勢や勇気はもちろんのこと、数ある引き出しを駆使し、試行錯誤しながら6年目で初めてシーズンを完走した。
夏場にはこうも言っていた。
「今年終わった時に、どれだけ今後の野球人生に大きな経験としてこの1年を残せるかというのが自分の中でテーマなので」
見据えるゴールはもっと先にある。“ファーストペンギン”の挑戦はまだ始まったばかりだ。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)