1勝に終わった2022年
話し合いの場で、1年を振り返る時間はほとんどなかったという。
2日に行われた契約更改交渉。タイガースの13年目・秋山拓巳は1勝に終わった苦闘のシーズンについて「(球団と)話すことないぐらい投げていないので、今シーズンの話はほとんどしていないですね」と口にした。
開幕ローテーション入りするも、白星は4月に挙げた1つのみ。5月11日の登板を最後に一軍に呼ばれることなくシーズンを終えていた。
2018年にメスを入れた右膝に痛みが走ったのは、2月の春季キャンプ中。昨年まで2年連続2ケタ勝利をマークしていた右腕は首脳陣から調整を一任される立場であり、そこからペースダウンして回復に努めたものの、2月に走り込みを行えなかったことが長いシーズンにおいて最後まで響いた。
今オフはブルペン入りを封印し、古傷のコンディショニングに注力。年俸は1年前に到達した大台の1億円を割る2200万円ダウンとなったが、「ずっと抱えている膝の状態とかが最近良くなってきているので、走る量も増やすことができている。そこが来季に向けての良いところ」と逆襲を期す来季への明るい材料も明かした。
「“秋山おったやん”みたいな」
視線と言葉が鋭く、強くなったのはその後だった。来季の目標を問われる質問に対して、今季飛躍した後輩2人の名を引き合いに宣言した。
「(西)純矢とか才木とか先発が出てきましたけど、投球術ということに関しては全然負けていないし、良い球を投げるだけがすべてでない。僕がローテーションに入れば、2ケタ(勝利を)3回していますし、勝てる投手だと思っている」
背番号21も今年で31歳になって、いつしかその背中を追われる立場に変わった。
実際、今年は自身の降格で空いた先発枠を手にした高卒3年目の西純矢や、24歳の才木浩人が活躍。まだまだ伸びしろもある新世代の台頭は、秋山にとって心中穏やかでない出来事のはずだが、13年で積み上げた経験や熟練の投球術が若手に向けた強い言葉の裏付けになっている。
“世代交代”という危機感も、今のところはそこまでないという。
「(二軍でも)全体的に自覚が足りない選手ばかりだったので、自分も若い時はそうだったのかもしれないですけど、こいつらにはまだ負けないなって、一緒に練習しながら感じていました」
シーズンの大半をファームで過ごしたため、後輩たちと接する機会も自ずと増えたが、自身のキャリアを脅かすようなライバルと感じる選手は視界に入ってこなかった。
だからこそ、復活への鍵はひとつしかない。
「6~7割くらいは走れるようになってきているので、無理せず追い込みながらやれたら」
懸案の右膝が万全となれば、完全復活は一気に近づく。
「今年は秋山という名前が出てこなさすぎてみんな忘れていると思うんですけど、来年の開幕の時には“秋山おったやん”みたいな。良い意味で期待を裏切るようなプラスの戦力として1年頑張りたい」
スタートラインに立つことができれば、快走できる──。
14年目は再び自らに号砲を鳴らす年になる。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)