4月連載:開幕直後の異変を追う
今年も悲喜こもごものドラマをもたらして、ペナントレースが開幕した。
5日現在(以下同じ)ヤクルト、阪神、ソフトバンクが連勝街道をばく進する。一方で新井貴浩新監督を迎えた広島は白星なしの4連敗と苦しんでいる。
勝算と誤算。すべての球団が頂点を目指して戦陣に臨むが、思惑通りに戦えるチームは少ない。指揮官の描く青写真通りに発進したチームは開幕ダッシュを自信に変えてひた走る。逆にエンジンのかからない軍団は、一刻も早く軌道修正して、反撃態勢に移りたい。
飛び出したニューヒーローから、未だに真価を発揮できないでいるブレーキ組まで、23年春の球界異変を調査する。
第1回:ヤクルトの新守護神問題を解決した高津監督の慧眼
セリーグ連覇中、ヤクルトの強さは十分、承知していても今季のすべり出しには驚かされる。
開幕から5連勝は見事だが、5試合中4試合が完封勝利。総得点14に対して同失点は、わずかに2。チーム防御率0.40はあり得ない数字だ。
開幕から5試合で4完封は1943年名古屋(現中日)以来80年ぶりの記録だと言う。しかも、4完封はすべてリレー完封だから、投手陣の充実ぶりは首脳陣の期待をはるかに上回っている。
同じく4連勝をマークする岡田阪神が4試合で23得点の高い攻撃力を誇るのに対して、こちらは1試合平均3得点にも満たない。いかに巧みな試合運びと鉄壁な守りで勝ち進んでいるかがわかる。
そんな23年型ヤクルトで、あっと驚く変身を見せているのが“新守護神”に名乗り出た田口麗斗だ。
4月1日の広島戦。1-0の最終回に登場すると3人をピシャリと料理。その後も危なげなくクローザーを務めて3連続セーブ中。この間、1本のヒットも1つの四球も与えていない。昨年までは中継ぎを主戦場としてきたプロ10年生が華麗な転身を遂げている。
誰が、田口のクローザー起用を予想できただろうか?
王者・ヤクルトの死角を探るとすれば、昨季38セーブを記録したスコット・マクガフ退団の穴を誰が埋めるかが、最大のポイントとされてきた。
通常、抑えの切り札と言えば、スピードボールを投げて、三振を取れることが絶対条件とされてきた。ヤクルトで言えば、前年実績から中継ぎエースの清水昇や、急成長の速球派・木澤尚文らに、新外国人のケオネ・ケラ(前ドジャース)が、有力候補と目された。
しかし、いざふたを開けてみたら、高津臣吾監督が指名したのは田口だ。
「キャンプ、オープン戦を通じて安定していた。コントロールに苦しむことがないし、丁寧に一発を避けて(打者に)遠く、低くと言う意識を強く持った投手」と指揮官は抜擢の理由を語ったが、この決断と判断力が凄い。
自身の現役時代も「炎のストッパー」と呼ばれた。抑えの醍醐味や怖さも知り尽くした指揮官は、田口の球威不足は承知のうえで、マウンド度胸と豊富なキャリアに賭けている。まさに「高津マジック」の真骨頂を見る思いである。
田口と言えば「ひょうきん者」として人気が高い。勝利後のブルペンではスタンドに手拍子を煽りながら球場を盛り上げるパフォーマンスが“神宮名物”になっている。一方で、今では投手キャプテンとして、チームに欠かせない存在だ。
もちろん、このまま年間を通してクローザーの大役を果たせれば最高だが、長丁場のシーズンには浮き沈みもある。高津監督にすれば、今から次の策も練っているだろう。この手の「やりくり上手」も指揮官の強みである。
開幕初戦から、村上宗隆選手の一発が飛び出す。山田哲人、高橋奎二、中村悠平のWBC戦士も元気だ。内山壮真、長岡秀樹らの若手選手もさらに成長を遂げている。そこに最も不安視されていた投手陣が盤石のスタートを切れば、死角を探す方が難しい。
あっと驚く田口の守護神指名と、圧倒的な完封ラッシュ。“村神様”だけのチームではない。今年も高津ヤクルトの動向から目が離せない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)