「今までで一番悔しかった」
現在の高校野球界の中で、トップクラスの飛距離を誇るのが広陵(広島)の真鍋慧(けいた=3年)だ。
「広陵のボンズ」の愛称で親しまれ、高校通算本塁打は50発を超える。同世代では高校生の歴代最多本塁打を更新中の花巻東・佐々木麟太朗(3年)と並ぶ長距離砲として、今秋のドラフト上位候補に挙がる左の強打者だ。
長打へのこだわりは、2年生だった昨夏の凡退抜きでは語れない。同校は優勝候補の筆頭に挙げられていた。しかし、それまで3回戦進出が夏の最高成績だった英数学館に1−2で敗れて3回戦で姿を消した。
この一戦で、最後の打者となったのが真鍋だった。9回二死二・三塁とサヨナラの好機で打席が回った。
芯で捉えた大飛球を放つも、柵越えまでわずかに届かない中飛に終わった。
「あと一歩で本塁打だった。だからこそ今までで一番悔しかったです」
新チーム結成後には、「本塁打の打ち損じが安打だぞ」と首脳陣から伝えられた。
「僕は、安打の延長線に本塁打があるという考えでした。“本塁打の打ち損じが安打”と言われたことで、思い切りバットを振ろうと思った。スイングスピードも打球スピードも速い方だと言ってもらっていたので、思い切り振り、遠くに飛ばそうと考えるようになりました」
県大会に敗れた数日後には、父・隆さんから「もっと練習していれば、あと1メートル飛んで本塁打になっていたかもしれない。練習が足らんのじゃのう」と言われた。
後日には父から郵便物を受け取った。中身は、英数学館戦に敗れて広陵ナインが泣き崩れる写真が掲載された新聞だった。この新聞を切り抜いて自室に飾り、悔しさを忘れなかった。
スカウトからの評価も上々
最上級生となってストイックに打撃を磨く姿に、甲子園春夏通算37勝を誇る中井哲之監督は「真面目で負けず嫌い。真鍋に限らずだが、最上級生になって“俺がやってやる”という気持ちになっている」と証言する。
世代随一の飛距離が最大の魅力とはいえ、4強入りした今春選抜では広角に打ち分けるバットコントロールも披露した。
初戦の二松学舎大附(東京)戦では、3回に迎えた2打席目に左前打を放ち、1−0の5回二死三塁では高めに浮いた直球を左前にはじき返す適時打を決めた。
7回には低めの変化球に反応して右翼線への二塁打を放ち、計3安打。状況に応じて左右に打ち分けられる対応力をアピールした。
初戦を見届けたNPBのスカウト陣の評価も上々だった。
広島の白武佳久スカウト部長は「巧打者のような打撃もできる。上体が前に突っ込まないから変化球に対応できる」と評価すれば、ヤクルトの橿渕聡スカウトグループデスクは「うちの村上や大谷翔平選手も逆方向に長打を打てる。これは現代の強打者のキーポイント」と左方向への長打に目を細めた。
4月上旬にはU18日本代表候補選手の強化合宿に参加した。そこで馬淵史郎監督から打撃練習では多少のボール球もスイングすればいいのではないかと助言を受けた。
「僕は高めが苦手。(ボール球を)振ることでストライクゾーンも分かるし、積極性も出てくると言っていただいた」
得意なコースに球がくれば、打球をピンポン球のように遠くに飛ばすことができる。加えて、高めなど苦手なコースにも対応できれば、さらに手がつけられない打者へと近づいていくだろう。
伸びしろを十分に残す真鍋の進化は、まだまだ続く。
文=河合洋介(スポーツニッポン・アマチュア野球担当)