秋に指名を待つ4年生にフォーカス
今年は10月26日(木)に行われる『2023年 プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD』。気が付けばあと5カ月で運命の日を迎える。
今年のドラフト戦線は、かねてから大学生の“豊作”ぶりが話題の中心だった。6月に行われた『第72回全日本大学野球選手権』でも、連日視察に訪れるスカウト陣の目線も例年以上に熱がこもっている印象を受けた。
その中で自身の評価を高めることに成功したのはどの選手だったか。今回はこの秋に指名を待つ4年生のドラフト候補たちをピックアップして紹介したい。
MVPに輝いた青山学院大のエース
投手で圧巻のパフォーマンスを見せたのが、優勝した青山学院大のエース・常廣羽也斗だ。
最初の登板となった中部学院大との準々決勝では6回を投げて9奪三振で無失点。さらに明治大との決勝では、強力打線を相手に10奪三振で完封と前評判通りの投球でチームを優勝に導いた。
150キロを超えるストレートはもちろんだが、カーブやスライダー、カットボールとあらゆるボールでカウントをとることができ、決め球のフォークも打者の手元で鋭く落ちて空振りを奪う。
昨年まではロングリリーフでの起用が多かったが、大舞台でも先発として長いイニングで結果を残したことで、スタミナや投球術の面でも成長を見せた。
今大会での快投によって、今後大きく調子を落とすことがなければ1位指名の可能性は極めて高いだろう。
サウスポーで評価を上げた選手
常廣に続いて、今大会で評価を上げた投手として名前を挙げたいのが、サウスポーの古謝樹(桐蔭横浜大)だ。
初戦で仙台大に延長10回タイブレークの末に敗れたものの、9回までは被安打5、7奪三振で無失点と素晴らしいピッチングを見せた。
ストレートは自己最速となる153キロをマーク。カウントをとるボールは140キロ台前半から中盤程度だが、勝負どころで力を入れた時のボールの勢いは今大会でも屈指だった。
110キロ台のカーブや120キロ台後半の縦のスライダー、130キロ台のツーシームと縦の変化球にバリエーションがあるのも大きな特長だ。
時折高めに浮くボールが続くなどコントロールはまだ不安定なところはあるものの、9回までを106球で無失点に抑えたように、少ない球数で結果を残せたことも大きなプラス要因だ。
同じサウスポーで結果を残したのが高太一(大阪商業大)だ。
肘の故障でリーグ戦の中盤以降は登板がなく、今大会が復帰登板となったが、先発した花園大との試合では6回1/3を投げて1失点、6奪三振でチームを勝利に導いた。
リリーフで連投となった富士大戦では、味方のエラーもあって2点を奪われたものの、ストレートの最速は149キロをマーク。故障の影響を感じさせないボールを見せた。
本格派サウスポーでありながらコントロールが安定しているのが魅力で、右打者の内角に投げ込むボールは左投手らしい角度がある。春のリーグ戦では不完全燃焼に終わっただけに、今大会の登板で安心したスカウト陣も多かっただろう。
その他の投手では、常廣とともに先発として優勝に大きく貢献した下村海翔(青山学院大)、150キロ台のストレートを連発した大山凌(東日本国際大)、中盤崩れたものの、前評判通りの球威を見せた滝田一希(星槎道都大)なども高評価を受けた印象だ。
野手は明治大のキャプテンや仙台大の遊撃手が活躍
一方の野手では、最も注目されていた上田希由翔(明治大/三塁手)がさすがの打撃を見せた。
明治大の主将を務めている逸材は安打こそ4試合で3本だったものの、本塁打1に二塁打も2本と長打力を発揮した。
特に日本体育大戦で放ったライトへの一発は、低い軌道のライナーでそのままスタンドに飛び込むもので、その弾道に驚いたファンも多かっただろう。
三塁守備では少し不安定な面もあったが、今年の大学球界を代表する打者という評価は揺るぎないものとなったことは間違いない。
攻守にわたって存在感を見せたのが、辻本倫太郎(仙台大/遊撃手)だ。
初戦の桐蔭横浜大戦では延長10回に試合の行方を決定づける2点適時打を放つと、続く東日本国際大戦でも決勝の3ランをレフトスタンドに叩き込み、中軸としての役割を果たして見せた。
168センチと上背はないものの、全身を使ったスイングでヘッドの走りが良く、長打力も申し分ない。昨年の明治神宮大会に続いての本塁打であり、大舞台に強いのも魅力だ。
また、遊撃守備も少し軽率なプレーはあるものの、フットワークの良さは抜群。適切なポジショニングやカバーリングを怠らない姿勢も目立つ。今年の大学生ショートでは1、2を争う存在と言えるだろう。
外野手では、中島大輔(青山学院大)がアピールに成功した。
初戦の国際武道大戦では1回に安打で出塁すると、すかさず盗塁を決めて先制点を演出。続く中部学院大戦では2回に満塁弾をライトスタンドに叩き込み、一気にチームに流れを引き寄せて見せた。決して長打を連発するタイプではないが、年々パンチ力はアップしている印象を受ける。
加えて、抜群の脚力を生かしたセンターの守備範囲の広さもプロで上位に入るレベルだ。若手のスピードのある外野手が不足している球団にとっては非常に魅力的な選手と言えるだろう。
今大会である程度大学4年生の評価は固まりつつあるが、まだここからの浮上も十分に可能である。秋のリーグ戦でも、猛アピールを見せる選手が出てくることを期待したい。
文=西尾典文(にしお・のりふみ)
☆記事提供:プロアマ野球研究所