キャンプの時から温めていた「3番・森下」
半年前から構想を抱いていた“理想の3番”が輝きを放ち始めた。7月30日のカープ戦。6回にタイガースの森下翔太が懸けたアーチには価値があった。
左翼スタンドに飛び込む今季3号2ラン。1-1の同点に追いつかれた直後、尻上がりに調子を上げていた相手先発・大瀬良大地から放った。
この一本が決勝打となり、チームも1ゲーム差の2位で迎えた首位攻防戦に2勝1分で勝ち越し。1ゲーム差をつけて首位を奪い返した。
「昨日から真っすぐ系統に詰まるのが(自分の中で)引っかかっていた。はじき返せるように修正したのが良かった」
ボールを左目で見るように意識して体の開きを止めるなど、限られた準備期間で微調整して響かせた快音だった。
近本光司が右肋骨骨折で離脱してからは1番を任されることが多かったが、7月25日のジャイアンツ戦からは3番を任されている。
助っ人のシェルドン・ノイジーの不振もあるものの「3番・森下」は岡田彰布監督が就任当初から温めていたプランだった。
キャリア初の4安打・3打点でヒーローになった7月28日のカープ戦後、指揮官は「(3番・森下は)いやいや、プランもくそも、そんなん一番考えてたんはキャンプ。そんなのは。半年経ってやっと実現したなと、(ヘッドコーチの)平田と話しとったよ」と満足げにうなずいた。
チームにとっても森下にとっても勝負の夏場
遡ること半年前の2月。故障で二軍スタートもアグレッシブに強振でき、逆方向にも長打が打てるルーキーの潜在能力を高く評価した岡田監督は、1年目から森下を3番で起用して、大山悠輔・佐藤輝明との“生え抜きドラフト1位トリオ”での中軸形成を思い描いていた。
開幕当初はプロの壁にぶつかり、2度の二軍降格も経験しながら適応してきたルーキーがようやく収まるところに収まり、首位のチームに勢いを生んでいる。
8月1日のドラゴンズ戦でも、東海大相模高で3学年上の先輩だった小笠原慎之介から勝ち越し適時打を含む2安打をマーク。自身2度目の猛打賞を記録した。優勝へ向けての大きな分岐点となりそうな夏の長期ロード初戦で、10得点の快勝に導く立役者になった。
この試合後、岡田監督は再び「3番・森下」に言及している。
「いや、もう普通やで。別に打ったからどう、あかんかったからどうっていう段階じゃないやろ。もうずっと3番で行かせるつもりやから」。
その言葉は、背番号1が自らの力でポジションを勝ち取ったことの証だった。
“アレ”を目指す戦いはこれから佳境に入る。
同時に、背番号1の真価も問われる。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)