コラム 2023.08.31. 06:00

ドラフト候補“不作”の下馬評も…?『夏の甲子園』でキラリと光った注目投手

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神村学園・黒木陽琉 (C) Kyodo News

“今大会No.1右腕”は社会人野球へ


 慶応の107年ぶり2回目となる優勝で幕を閉じた『第105回全国高校野球選手権記念大会』。侍ジャパンU-18代表に選出されたメンバーを除くと、3年生にとっては大舞台でのアピールはこれが最後となった。

 今夏の甲子園はドラフト候補が“不作”であると一部のメディアで指摘されたこともあったが、その中でキラリと光るものを見せた選手が多くいた。

 まずはスカウト陣から「今大会No.1投手」の評価を得たのが、徳島商のエース・森煌誠である。


 下級生の頃から素材の良さは評判となっていたが、最終学年でその才能が本格的に開花。徳島大会では5試合を1人で投げ抜き、チームを甲子園に導く活躍を見せる。

 本大会では、優勝候補の一角として前評判の高かった愛工大名電を相手に圧巻の投球を披露。立ち上がりに暴投による振り逃げなどでピンチを招いて適時打を浴びて1点こそ失ったものの、2回以降は強力打線をわずか3安打に抑え込み、10奪三振、2-1で完投勝利を飾った。

 試合終盤にこの日最速となる147キロのスピードをマークするなど、球威は最後まで落ちることがなかった。さらに落差のあるカーブ、ブレーキ抜群のスプリットと球速差のある縦の変化球を2種類が操れる。これも大きな武器だ。


 続く2回戦の智弁学園戦には6-12で敗れ、試合後には社会人入りを目指すと表明した森だが、順調にいけば3年後のドラフト会議で有力候補になる可能性は高い。

 ほかにも準優勝した仙台育英で2枚看板を形成した高橋煌稀と湯田統真、地方大会から抜群の安定感を見せた沖縄尚学の東恩納蒼も「進学希望」と言われている。彼らも実力は申し分なく、進学先の大学で早くから主戦投手になることが期待できる。


プロ志望の“2人の左腕”が活躍


 一方、プロ志望と見られる選手のなかで目立った活躍をみせたのは、神村学園の黒木陽琉と履正社の福田幸之介という2人のサウスポーだ。

 黒木は登板した5試合すべてがリリーフ起用。常に安定した投球で、チームを準決勝まで導いた。

 身長183センチ・体重78キロと身体は細身ではあるが長いリーチを柔らかく使い、球持ちが長いことから相手打者が差し込まれることが多かった。

 視察したスカウトがスピードガンで計測したところ、最速147キロをマークしたという。また、変化球もレベルが高く、最近では珍しい曲がりが大きいカーブを上手く操るほか、斜めに鋭く変化するスライダーは一級品だ。

 下級生の頃に肘を痛めた影響で実績は乏しいとはいえ、今大会のアピール度でいえば1~2を争うレベルである。貴重な左腕だけに、高い順位での指名もありそうだ。


 そしてもう一人、福田は夏の大阪大会決勝で世代No.1の呼び声が高い大阪桐蔭のエース・前田悠伍と投げ合い、完封勝利をおさめて一気にスカウト陣の評価を上げた。

 今大会は少し力みがあり、大阪桐蔭戦に比べるとスピード、コントロールともにもうひとつという印象。それでも先発した高知中央戦では6回を投げて8個の三振を奪う好投をみせたほか、続く仙台育英戦はリリーフで起用され、最速147キロをマークしている。

 調子に波があり、変化球は全体的に早く変化するという課題もあるが、馬力は大きな魅力だ。若手のサウスポーが不足している球団にとっては面白い存在になりそうだ。


将来性が光る英明のサウスポー


 また、同じサウスポーで可能性を感じさせたのが英明の寿賀弘都だ。旧チームから中軸を任されており、打者としても高い能力を誇るが、将来性が高いのは投手の方に見える。

 テイクバックで上手く肘をたたむフォームであり、ボールの出所が打者から見づらい。それでいて、高い位置から腕が振れるためボールの角度も申し分ない。

 チームは初戦で智弁学園に7-6で敗れたが、寿賀はセンターとピッチャーを何度も交代するという難しい起用の中で、合計6回1/3を投げて自責点0(失点1)という好投を見せた。

 寿賀本人は、試合後の取材で「(プロでは)ピッチャーをやりたい」と明言している。投手に専念すれば、現在140キロ前後のストレートもこれからスピードアップする可能性は高いだろう。現時点では支配下指名は難しいかもしれないが、育成でもプロ入りするということであれば、将来性を評価して指名する球団が出てきそうだ。


 このほか、右投手で最も注目されていた専大松戸の平野大地は不調で登板がなく、仙台育英の仁田陽翔や星稜の武内涼太ら下級生からスカウト陣が注視していた投手も少ない登板に終わって残念だったが、素質の片鱗は見せてくれた。

 高校から直接プロ入りはならなくても、次のステージで、力をつけて成長した姿を見せてくれることを期待したい。


文=西尾典文(にしお・のりふみ)
☆記事提供:プロアマ野球研究所
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