2023年シーズンのプロ野球で起きた珍プレーや珍事を振り返る「プロ野球B級ニュース事件簿2023」。最終回となる第5回は「思わずほっこりの話編」と銘打ち、熱戦の最中に見られた心を和ませるちょっといい話を紹介する。
クロスプレーの際に交錯して倒れた相手選手を気遣う助っ人の咄嗟の行動が「いいね!」と好評を博したのが、9月8日の巨人VS中日でのひとコマだ。
0-0の8回裏、巨人は先頭の門脇誠が代わったばかりの斎藤綱記の外角低めスライダーに泳ぎながらも、両足が完全に宙に浮く“空中打法”で左前に落とし、出塁した。
そして、次打者・丸佳浩のカウント2-2からの5球目にランエンドヒットでスタートを切った。丸は空振り三振に倒れ、門脇も二塁タッチアウトになったが、捕手・木下拓哉の送球が二塁手(石垣雅海)寄りにそれたことから、ベースカバーに入ったショート、オルランド・カリステの左膝がヘルメット越しに門脇の左側頭部に激しくぶつかる形になった。直後、門脇は両手で頭を抱え込んで、その場に倒れこんでしまった。
これを見たカリステは「緊急事態だ!」とばかりに、一塁側の巨人ベンチに大きなジェスチャーで合図しながら、門脇を抱え込むようにして様子を見守った。トレーナーが駆けつけ、ベンチの原辰徳監督も心配そうに見守るなか、トレーナーの指示で座ったままの姿勢を続けた門脇は、しばらくして自力で立ち上がり、トレーナーに付き添われてベンチに戻ってきた。幸い大事には至らず、9回もショートの守備位置に就いた。
試合は延長12回、0-0の引き分けに終わったが、この日のカリステの思いやりに溢れた行動は多くのファンの共感を呼び、ネット上でも「カリステ良い奴だな」「カリステ紳士的だった」など、絶賛の嵐だった。
今季は打率.233、5本塁打、13打点と物足りない成績に終わったカリステだが、万能の守備と真面目な性格が評価されたようで、来季も残留が決まった。
守備に就いていた選手が、相手走者のレガースを付け直してやる心優しい行動が見られたのが、9月25日の中日VS阪神だ。
1点を追う阪神は7回、先頭のジョーダン・ミエセスが三塁内野安打で出塁し、無死一塁。同点の走者が出たところで、岡田彰布監督は代走・島田海吏を送り、次打者の投手、ジェレミー・ビーズリーに送りバントを命じた。
ビーズリーは梅津晃大の初球、真ん中高め143キロ直球をバントしたが、一塁線を切れるファウルになった。思わずほっこりする場面が見られたのは、本塁と一塁の中間辺りから引き返そうとしたビーズリーが立ち止まり、外れたレガースを付け直そうとしたときだった。
手際良く直すことができない様子を見た一塁手の宇佐見真吾が隣にしゃがみ込んで、ビーズリーのレガースを外すと、丁寧に付け直してくれたのだ。
これにはビーズリーはもとより、ベンチの岡田監督も思わず笑顔になり、スタンドからも大拍手が送られた。ネット上でも「癒される時間や」「一種の竜虎同盟?」など、敵味方を超えた“ファインプレー”に賛辞が贈られた。
今季はシーズン中の6月に2対2の交換トレードで日本ハムから中日に移籍してきた宇佐見。移籍後は69試合に出場し、8月にセ・リーグタイの月間3度のサヨナラ打を記録するなど、打率.282、3本塁打、14打点とまずまずの成績を残した。年俸も1100万円アップの4100万円(推定)にアップ。来季のさらなる活躍を期待したい。
指揮官としての対応はいただけなかったが、選手を思いやる優しさがファンの共感を呼んだのが、広島・新井貴浩監督だ。
9月7日のDeNA戦。2戦連続サヨナラ勝ちで勢いに乗る2位・広島は、マジック「13」の首位・阪神に7.5ゲーム差ながら、最後の意地を見せようと、3連勝を狙っていた。
問題のプレーが起きたのは、0-0の2回、牧秀悟の二塁打などで一死三塁のピンチに、遠藤淳志はネフタリ・ソトを浅い左飛に打ち取ったが、三塁走者・牧はタッチアップからスタート良く本塁へ。
これに対し、広島もレフト・堂林翔太がワンバウンドながら本塁にストライク返球。捕手・会沢翼も本塁に突っ込んでくる牧の足にミットを出し、体を張って生還を阻止しようとした。だが、左手首にスパイクを受ける形になり悶絶。際どいタイミングながら、眞鍋勝巳球審は「セーフ!」をコールした。
すぐにリクエストしなければならない場面だが、会沢の左手首の状態が心配でたまらない新井監督は「ちょっとアツ(会沢)が気になって、ちょっと出るところが遅れた」。会沢の無事を確認後、リクエストを要求したが、タイミングが遅れて却下されてしまった。
もし、リクエストで判定がアウトに覆っていれば、先制点を防いだことで流れが変わり、この日1-3で敗れた広島が勝利していた可能性もあったかもしれない。
ネット上でも「今日の広島の敗因、新井監督が優しすぎてリクエスト要求が遅れたこと。あれベイスターズ目線でもアウトだと思うで」の批判が出る一方、チームを「家族」と呼ぶ新井監督らしい“親心”に「新井さんのこういうとこが好きだよ」と擁護する声もあった。
来季はがむしゃらに勝者になるという決意から、キャッチフレーズは「しゃ!」。優しいだけではなく、勝負どころでは“鬼”にもなる新井さんを見せてほしい。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)
「カリステ良い奴だな」
クロスプレーの際に交錯して倒れた相手選手を気遣う助っ人の咄嗟の行動が「いいね!」と好評を博したのが、9月8日の巨人VS中日でのひとコマだ。
0-0の8回裏、巨人は先頭の門脇誠が代わったばかりの斎藤綱記の外角低めスライダーに泳ぎながらも、両足が完全に宙に浮く“空中打法”で左前に落とし、出塁した。
そして、次打者・丸佳浩のカウント2-2からの5球目にランエンドヒットでスタートを切った。丸は空振り三振に倒れ、門脇も二塁タッチアウトになったが、捕手・木下拓哉の送球が二塁手(石垣雅海)寄りにそれたことから、ベースカバーに入ったショート、オルランド・カリステの左膝がヘルメット越しに門脇の左側頭部に激しくぶつかる形になった。直後、門脇は両手で頭を抱え込んで、その場に倒れこんでしまった。
これを見たカリステは「緊急事態だ!」とばかりに、一塁側の巨人ベンチに大きなジェスチャーで合図しながら、門脇を抱え込むようにして様子を見守った。トレーナーが駆けつけ、ベンチの原辰徳監督も心配そうに見守るなか、トレーナーの指示で座ったままの姿勢を続けた門脇は、しばらくして自力で立ち上がり、トレーナーに付き添われてベンチに戻ってきた。幸い大事には至らず、9回もショートの守備位置に就いた。
試合は延長12回、0-0の引き分けに終わったが、この日のカリステの思いやりに溢れた行動は多くのファンの共感を呼び、ネット上でも「カリステ良い奴だな」「カリステ紳士的だった」など、絶賛の嵐だった。
今季は打率.233、5本塁打、13打点と物足りない成績に終わったカリステだが、万能の守備と真面目な性格が評価されたようで、来季も残留が決まった。
中日・宇佐見真吾が「竜虎同盟」を演出
守備に就いていた選手が、相手走者のレガースを付け直してやる心優しい行動が見られたのが、9月25日の中日VS阪神だ。
1点を追う阪神は7回、先頭のジョーダン・ミエセスが三塁内野安打で出塁し、無死一塁。同点の走者が出たところで、岡田彰布監督は代走・島田海吏を送り、次打者の投手、ジェレミー・ビーズリーに送りバントを命じた。
ビーズリーは梅津晃大の初球、真ん中高め143キロ直球をバントしたが、一塁線を切れるファウルになった。思わずほっこりする場面が見られたのは、本塁と一塁の中間辺りから引き返そうとしたビーズリーが立ち止まり、外れたレガースを付け直そうとしたときだった。
手際良く直すことができない様子を見た一塁手の宇佐見真吾が隣にしゃがみ込んで、ビーズリーのレガースを外すと、丁寧に付け直してくれたのだ。
これにはビーズリーはもとより、ベンチの岡田監督も思わず笑顔になり、スタンドからも大拍手が送られた。ネット上でも「癒される時間や」「一種の竜虎同盟?」など、敵味方を超えた“ファインプレー”に賛辞が贈られた。
今季はシーズン中の6月に2対2の交換トレードで日本ハムから中日に移籍してきた宇佐見。移籍後は69試合に出場し、8月にセ・リーグタイの月間3度のサヨナラ打を記録するなど、打率.282、3本塁打、14打点とまずまずの成績を残した。年俸も1100万円アップの4100万円(推定)にアップ。来季のさらなる活躍を期待したい。
選手の怪我を心配してリクエスト要求が遅れた指揮官
指揮官としての対応はいただけなかったが、選手を思いやる優しさがファンの共感を呼んだのが、広島・新井貴浩監督だ。
9月7日のDeNA戦。2戦連続サヨナラ勝ちで勢いに乗る2位・広島は、マジック「13」の首位・阪神に7.5ゲーム差ながら、最後の意地を見せようと、3連勝を狙っていた。
問題のプレーが起きたのは、0-0の2回、牧秀悟の二塁打などで一死三塁のピンチに、遠藤淳志はネフタリ・ソトを浅い左飛に打ち取ったが、三塁走者・牧はタッチアップからスタート良く本塁へ。
これに対し、広島もレフト・堂林翔太がワンバウンドながら本塁にストライク返球。捕手・会沢翼も本塁に突っ込んでくる牧の足にミットを出し、体を張って生還を阻止しようとした。だが、左手首にスパイクを受ける形になり悶絶。際どいタイミングながら、眞鍋勝巳球審は「セーフ!」をコールした。
すぐにリクエストしなければならない場面だが、会沢の左手首の状態が心配でたまらない新井監督は「ちょっとアツ(会沢)が気になって、ちょっと出るところが遅れた」。会沢の無事を確認後、リクエストを要求したが、タイミングが遅れて却下されてしまった。
もし、リクエストで判定がアウトに覆っていれば、先制点を防いだことで流れが変わり、この日1-3で敗れた広島が勝利していた可能性もあったかもしれない。
ネット上でも「今日の広島の敗因、新井監督が優しすぎてリクエスト要求が遅れたこと。あれベイスターズ目線でもアウトだと思うで」の批判が出る一方、チームを「家族」と呼ぶ新井監督らしい“親心”に「新井さんのこういうとこが好きだよ」と擁護する声もあった。
来季はがむしゃらに勝者になるという決意から、キャッチフレーズは「しゃ!」。優しいだけではなく、勝負どころでは“鬼”にもなる新井さんを見せてほしい。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)