“異色”の投げ込みを敢行
タイガースが春季キャンプを張る沖縄・宜野座のブルペンを朝から眺めていると人間模様ならぬ「投手模様」が見えてくる。
午前のブルペンで出た課題克服へ“おかわり”のマウンドで投げ込む者。タオルを手に黙々とシャドーピッチングに励む者…。各々が成長と進化を目指して開幕までの有限の時間を鍛錬に注ぎ込む。
そんな中、“異色”の投げ込みを敢行しているのが4年目を迎えた伊藤将司。
第3クールの途中までに投じた計200球以上はすべてストレートだ。キャンプも序盤が終了し、徐々に実戦モードへと切り替えていく段階でてっきり変化球も解禁しているかと思い質問を投げかけると、ニヤリと笑って否定された。
「変化球? 投げてないですよ。キャッチボールで確かめるぐらいはあるっすけど、ブルペンではまだ1回も投げてないです」
ストレートへの“固執”には、もちろん確固たる理由が存在する。
「ストレートをしっかり投げていれば、変化球も投げられると思うので。まずはストレートを投げるっていうことをやっています」
実は、同様の取り組みは昨年から始めている。プロ1年目のオフに先輩・坂本誠志郎の計らいで合同自主トレをともにする機会に恵まれたタイガースOBの能見篤史氏のストレートへのこだわりに感化され、同氏が現役時代に取り入れていた投げ込み法を踏襲。
「ストレートだけを投げるのはしんどいっすよ。変化球って結構、休めるから」と体力を削られる投球に表情をゆがめながらも、シーズンを戦い抜く“土台”を作り上げている。
キャリア初の開幕投手にも意欲的
夏場、疲労もあって変化球でかわす投球にシフトし、7月は防御率4点台、8月は5点台と成績を落としたのはプロ1年目。
“苦しい時こそストレート”がすり込まれている伊藤将にとって南国・沖縄でひたすら「まっすぐ」を投げ込む日々はそのシーズンの行方をも左右する大切な1カ月なのだ。
今春初実戦が近づく。それでも、背番号27は信念を曲げない。
「試合までにブルペンで1回ぐらい変化球を投げられればいいかなと。一番力入れるストレートを投げられれば、大抵のことはできるので」
4年目の今季はローテーションの軸としてフル回転はもちろんのこと、キャリア初の開幕投手にも意欲的だ。
「やってみたい気持ちがあるので。そこは変わらないし、アピールできるように」
伊藤将司が“直球至上”に傾く2月は半分が終わろうとしている。「生命線」を磨き上げる作業は、ここからペースアップしていく。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)