コラム 2024.03.07. 17:00

侍ジャパンシリーズの欧州代表で存在感を示した「イチローのチームメイト」

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マリナーズ時代はイチローともプレーしたアレックス・リディ(中)

マリナーズで3シーズンプレーした「純粋な」イタリア人初のメジャーリーガー


 日本中を熱狂の渦に巻き込んだ昨年春のWBCから早1年。秋のプロ野球チャンピオンシップで優勝し、早速結果を出した井端ジャパンのこの春のテストマッチの相手は、欧州選抜。

 野球とヨーロッパと聞いてピンと来ない人も多いだろうが、このチームは2015年にも来日し、侍ジャパン相手に1勝1敗で星を分けている。

 とは言え、その陣容を見てみると、前回も今回もメンバーの大半が中南米カリブ地域にルーツをもつ選手で占められている。その中にあって、ヨーロッパ出身の選手の割合が比較的多いのがチェコとイタリアだ。

 そのイタリア選手のうちのひとりが今回2人しかいない元メジャーリーガーだ。

 2012年に東京で行われたMLB開幕戦であのイチローとともに来日した経験も持っているアレックス・リディ。彼は、イタリア生まれイタリア育ちで「純粋な」イタリア人初のメジャーリーガーでもある。

 イタリアの北西部、フランス国境に近いサンレモに生まれた彼は、幼少時から野球に親しんでいたという。

「父親が野球をしていたんだ。カルチョ(サッカー)には全然興味がなかったなぁ」

 2005年、17歳で斜塔で有名なピサにほど近いティレニアで行われたMLBのアカデミー(トライアウトキャンプ)に参加。ここでスカウトの目に留まり、マリナーズと契約した後、翌年にルーキー級アリゾナリーグでプロデビューを飾った。

 その後、マイナーの階段を駆け上り、プロスペクトの集まる2Aに昇格した2010年シーズンオフには、メジャーリーガーも参加するカリブ4大リーグのひとつ、ベネズエラリーグでもプレーした。

 ここでの活躍が認められたのか、2011年シーズンは3Aでスタートし、ついにメジャーリーグデビューを飾った。メジャーでは3シーズンで61試合に出場、36安打を記録し、ホームランも6本放っている。2012年春には、東京ドームで行われたMLBの開幕シリーズにメジャーリーガとして来日を果たした。

 この時、残念ながら公式戦では出番がなかったが、阪神とのプレシーズンゲームには出場している。それまで目にしたことのない熱狂的な応援を目にしたことが一番の思い出だ。

「イチローさんは、面白い人だったよ。レジェンドのひとりとプレーできたのは、いい経験だったね」とメジャー時代を振り返るリディだが、メジャー生活は翌2013年限りで終わり、その後5シーズンはマイナーとメキシカンリーグを行き来する生活。



メキシカンリーグとウィンターリーグを行き来する生活


 2019年に、名門・中信兄弟と契約を交わし、台湾に渡るが、初めてのアジアで調子が上がらず、結局、メキシコに舞い戻ることになった。

 言語的にも母国イタリアと似通っていることもあるのだろう、メキシコが水に合ったのか、その後はメキシカンリーグとウィンターリーグを行き来している。長いキャリアの中で、ベネズエラ、ドミニカ、プエルトリコ、そしてメキシコと四大ウィンターリーグすべてを制覇し、今ではすっかり「冬のプロ野球」に欠かせない顔となった。

 昨シーズンは、ベラクルス・アギラスで夏のシーズンを過ごし、12本のホームランをチームのために打ち、冬のシーズンは同じメキシコのマサトラン・ベナドスで過ごし、7本のホームランをかっ飛ばした。合わせて3月から1月までの長い野球シーズンで計128試合に出場し、112安打を放ったことになる。彼はこの生活をここ数年続けている。

 チームが勝ち、ポストシーズンに入れば、それはそれでうれしいことだが、その分オフは短くなる。夏と冬のシーズンともチームが決勝シリーズに進もうものなら、それこそ、オフはほとんどなくなる。

「9月に夏のシーズンが終わるんで、この時にイタリアへ帰るんだ。この時だけだね。帰れるのは」

 それでも、彼の母国、イタリアへ思いは強い。WBCには2009年大会以降、3大会連続で出場している。
 
 彼の現在の主戦場であるメキシカンリーグには、近年多くの日本人選手が渡っている。しかし、その多くが、シーズンを全うできずチームを去っている。このリーグのレベルは年々上がっているのだ。リディはそのことについてこう語ってくれた。

「そりゃ、日本やメジャーというわけにはいかないけどね。打高投低なんて言われているけど、ピッチャーのレベルは決して低くないよ。空気が薄いんで、ボールが飛ぶんだよ。僕のプレーする南部ではそうじゃないけど、メキシコシティなんかの北部のチームなんかとくにそうだね。それに去年なんか外国人枠が拡がったんだ。24人中20人だよ。そのほとんどがアメリカ人だったけどね」

 メキシコ球界では、二重国籍のメキシコ系アメリカ人の扱いについては、毎年のように議論の対象になる。

 昨年、侍ジャパンと死闘を演じた「チーム・メキシコ」に純粋な意味でのメキシコ人もメキシカンリーグでプレーしている選手もほとんどいなかった。ヒットを放った後の独特のポーズで人気を博したランディ・アロサレーナもキューバから亡命してきて「メキシコ人」になった。

 おそらく、彼の言う「エクストランヘロ(外国人)枠」は、その二重国籍者を含めたものだろうが、彼らの存在が、メキシコ生まれメキシコ育ちの選手の活躍の場を奪っているが、メキシコ野球のレベルを上げ、リディのような「野球国」ではない国出身の選手に高いレベルでのプレーの場を提供していることも確かなのである。




日本でのプレーを夢見てシリーズで存在感を示す


「俺ももちろん日本でプレーしたいよ。記事に是非書いといてくれ」

 ヨーロッパからはるばる中南米へ「出稼ぎ」に出ているリディの夢は日本でのプレーらしい。そのためには今回のツアーは絶好のアピールの機会だ。

 この日3打席に立った彼は、6回にこの日最も注目を浴びた投手のひとり、6回にマウンドに上がった山下(オリックス)からその剛球に振り負けることなく見事レフト前にヒットを放った。メジャーリーガーの面目躍如といったところか。

 このシリーズが終われば、現在居を構えているアリゾナでしばし過ごした後、メキシコに戻ってキャンプに合流する。

 今年で35歳。そろそろ選手生活の第4コーナーにさしかかっているが、母国イタリア、拠点を置くアメリカ、そして「職場」であるメキシコを巡る旅をもう少し続けるつもりだ。

「雇ってくれるチームがある限り続けるよ。その後は…。アメリカに家があるからねえ」

 このシリーズの活躍次第では、日本でその姿を再び見ることになるかもしれない。


文=阿佐智(あさ・さとし)
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