ファンを魅了するオン・オフのギャップ
中日の若き右腕・髙橋宏斗が7月30日のヤクルト戦(バンテリン)で7イニング無失点の投球を見せて自身最多8勝(1敗)をゲットした。
同月の登板4試合で32イニング連続無失点をマーク。6月最後の登板から合わせて33イニング連続無失点とした。
初回無死一・二塁で村上宗隆、ホセ・オスナを連続三振に仕留めてスタート。7回二死満塁では代打・青木宣親を一ゴロに封じてゲームをブルペンに託した。この日最速156キロ真っすぐで119球を投げ終えた。
「今日はあまり調子が良くなかったです。その中で、何とか勝てました。本当は8回まで行きたかった。球数が増えて、7回ということになりました」
規定投球回まで1イニング残して降板。試合中、首脳陣とは8回を目標にする意思疎通をしながら、球数を考慮しての7イニング降板となったという。
それにしても何たる数字か。防御率は「0.48」。規定に達していなくても、奪三振89はリーグ3位に付けている。春季キャンプでフォームが定まらず、2軍でスタートしたプロ4年目。1カ月遅れで昇格し、とてつもない勢いで巻き返している。
「ある程度自分が思っている球と実際の球のギャップが小さくなっているかなと思いますし、しっかりとゾーン内で勝負できていることは調子がいい要因かなと思う。真っすぐはかなり安定しています。他の球も生きてきているし、他の球は日によってバラバラですけれど、真っすぐが安定している分、他の球も今は生きていると思います。スプリットもなるべく真っすぐに見えるように投げるようにというのは意識していて、今はそれが少し形になっているのはいいかなと思います」と投球内容を自己分析する。
マウンドに上がれば王様、登板日以外は独特のオーラを放つ、ややおっちょこちょいの21歳。そのギャップがファンを魅了するのだろう。
シーズン残り50試合で上がったマウンドに対して「100試合切ってますよね? あと僕自身投げられるのかも、今シーズン残りわずかだと思うので、しっかり勝ちにこだわってやりたい」と真顔で話す。
起床後一番先に行うルーティンは「起きます」。起きなかったら一大事。そりゃ起きるっしょ? というメディアの突っ込みに、「ですよね~」と笑って返す。何ともつかみどころのない、加えてすべてのトーク内容に嫌みがない。髙橋宏斗は独自の世界を生きている。
今があるのは苦しさと向き合い、受け入れることと、いなすことのバランスを培ってきたからから。中京大中京2年冬、コロナ禍に襲われた。秋の神宮大会を制して手に入れた、センバツは中止となった。3年夏は愛知県独自大会で優勝、選手権大会はなかった。
甲子園のマウンドは、センバツに選ばれていた高校に対する代替ゲームとして行われた交流大会。奈良・智弁学園に勝った1試合で終了。「何だか、いろいろな連続性というか、進むと思っていた未来が切れて、ポツーン、という感情でした」と振り返る。
コロナ禍に振り回され、目指した慶応大の入試にも失敗した。「僕が順風満帆? そんなわけないじゃないですか(笑)」。置かれた環境で花を咲かせてきた。
チームはBクラスから浮上のきっかけを探りながら試合数だけ消化しているのが現状。背番号19の登板は竜党にとってのストレス解消日。「クライマックス・シリーズ(CS)、行きたいです。頑張ります」。ピュアなまなざしに、また引き込まれる。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)