高校野球へバトンを渡す中学野球。春山監督は直接的に「甲子園を目指せ」という言葉を使うことはない。選手一人一人の成長曲線には違いがあり、その成長度を認め、褒めてあげることが大事なことだと力説する。
「前チーム(3年生)のエースは身長が150cmくらいのチビッ子エースでした。その子はいつも1番早くグラウンドに来て、準備をしっかりとする選手でした。コツコツと努力した結果、球速が入学時から27キロも速くなり、打球は80mも飛ばなかったのが、最後の試合でライトオーバーを打つまでになりました。努力する子は活躍できます。高校でもきっと頑張ってくれると思います」。
強豪私学から誘いが来る選手もいれば、そうでない選手もいる。中学生は心身ともに成長期であるがゆえ可能性を見守ることを最優先としている。「野球は、上手い子がそろったら勝てるというわけではない」と話す。
「素直で明るい子、社会に出ても挨拶ができる子、そういう子を育てたいですね。高校野球に入ったらどこも厳しいからね。中学野球は大らかに育てたい。とはいっても、練習は大事ですから、技術的なことを言えば、多く走らせ、多くバットを振って、多くノックを受けること。中学生の間は、数をやり込むことも大事なことだと思っています。そして試合になったら、楽しく、みんなで戦う。勝つか負けるかは時の運です」。
新チームのキャプテンは、唯一の女子選手が選ばれた。「負けん気の強い、しっかりした子ですよ」と太鼓判を押す。孫のような年齢の選手たちにノックを打ち、野球を上達させる春山監督。1打、1打に込める思い、それは自分が果たせなかった甲子園に行って欲しいと言う子供たちへの願いと、野球愛が込められている(取材・樫本ゆき)