◆ 白球つれづれ2025・第14回
永遠のライバル、巨人を相手に3連勝。藤川阪神が早くも単独首位に立った。
9試合消化時点での首位に、さしたる意味はないが敵地・東京ドームに乗り込んで、最初の巨人戦3タテに虎党は至福の時を堪能した。
中身の濃い連勝だった。藤川球児新監督の目指す野球が見えてきたと言ってもいいだろう。
巨人3連戦の内容をもう少し掘り下げてみる。
初戦は7-2で快勝。相手エース・戸郷翔征を打ち崩して3回KOすると、打線は先発野手全員安打に、こちらは大黒柱の村上頌樹が盤石の投球で2勝目をあげる。
第2戦は新戦力の富田蓮投手の好投に、佐藤輝明選手が2発の本塁打などで援護して逃げ切り勝ち。
そして第3戦は、わずか2安打ながら押し出し四球でもぎ取った1点を5投手のリレーで守り切った。中でも先発の門別啓人が6回途中まで無失点でプロ初勝利を飾った。
富田と門別は、いずれも3年目の左腕成長株。昨年までの先発ローテーションを比較すると西勇輝、大竹耕太郎、伊藤将司らがコンディション不良などで出遅れているが、そこに思い切って若手を起用して活路を見出している。
さらに第3戦では門別が6回二死一・二塁のピンチを迎えると、ここで育成ドラフト出身のルーキー・工藤泰成を起用して、ワンポイントリリーフに成功する。開幕戦(対広島)でも完封目前の村上から9回二死で岩崎優にスイッチするなど、投手出身の指揮官ならではのち密な手腕が光っている。
開幕からの9試合で5勝3敗1分け。このうち勝ちゲームでは3勝が1点差勝利だから、粘り強く勝ち抜いていることがわかる。
岡田彰布前監督の勇退を受けて45歳の新指揮官は誕生した。現役時代は「火の玉速球」を代名詞に主に中継ぎエースとして活躍。その後はメジャーにも挑戦して本場の野球を吸収する。現役引退後も的確な評論で人気を博した。
新監督には似つかわしくないほどの落ち着きを感じる。評論家時代にも、自分が指揮を執った時にはこうしたチームを目指すと言う明確なビジョンを持っていたのだろう。
「球進一歩」を座右の銘として「凡事徹底」をしばしば口にする。
沖縄キャンプでは、投内連係でミスが出ると、その場で全員を集めてチェックする。野手には「シャッフル・ノック」と称して三塁の佐藤輝に外野を守らせ、左翼の前川右京選手に一塁で守備練習を課す。あらゆる状況に応じて、やれることはやっておく。まさに「球進一歩」であり、「凡事徹底」を選手たちに植え付けた。
一方で、岡田前監督が厳しい指導の「威厳型」だったのに対して、年齢が若い分だけ、選手に寄り添う姿勢を見せている。
監督就任時からチーム浮上のキーマンとして佐藤輝の名前を上げて発奮を促す。潜在能力の高さはチーム一だが、打撃で粗さともろさが目立ち、守っては雑な守備も多かった。その佐藤輝をチームリーダーとして指名することによって自覚を持たせる。今季早くも4本塁打を放つ佐藤輝だが、これまでの引っ張り一辺倒から左翼方向へ流し打つ長打が増えた。走塁にも積極的に挑戦するなど、藤川流のスキンシップが効果を発揮しだしている。
就任早々、大きなピンチに見舞われた。主砲の大山悠輔を始め、坂本誠志郎、原口文仁各選手がFA流失の危機に直面したが、いずれも宣言残留を決意。生え抜きで中心選手の残留が今オフ最大の補強ポイントとも言われた。
投手陣を中心に若手の思い切った登用。佐藤輝、森下翔太、大山で組む和製クリーンアップ。さらに近本光司、中野拓夢両選手の一、二番コンビの出塁率が上がれば、機動力野球が威力を増す。
「伝統の一戦」に敗れた巨人・阿部慎之助監督はライバルをこう評した。
「ここぞ、の集中力は高く、我々も見習わなくてはいけない。投手力を中心とした守りは非常に強固」。敵将にこれだけのインパクトを与えたのだから、3連勝の持つ意味は大きい。
8日からは、今季初めて甲子園に戻ってヤクルト、中日との6連戦。昨年もホームゲームは43勝27敗2分けと無類の強さを発揮した。
勢いに乗る藤川采配で一気に首位固めを狙いたいところだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)