◆ 白球つれづれ2026・第4回
プロ野球のキャンプインまで1週間を切った。
ほぼ全員が、来たるべきシーズンに向けて、契約を完了。自主トレーニングに汗を流している。
ところが、本稿を執筆している1月26日現在、ただ一人契約未更改の選手がいる。阪神の“サトテル”こと佐藤輝明だ。
昨年は藤川球児新監督の下でリーグ優勝。若き主砲は本塁打、打点の二冠王に耀き、MVPも受賞。バラ色のオフを迎えるはずだった。
しかし、昨年暮れの契約交渉から様相は一変する。
昨季の年俸は1億5000万円(推定、以下同じ)に対して、球団側は大幅な昇給額となる倍増の3億円を提示するが、佐藤側はこれで承諾しなかった。それどころか、今オフにポスティングシステムを使ったメジャー挑戦を直訴したと言われている。何度かの水面下での交渉は行われたようだが、未だに解決の糸口は見つかっていない。
もちろん、キャンプイン前にサインして新たな出発することが予想されるが、場合によっては、自費でキャンプインすることや、一部では、このまま交渉が決裂して佐藤が退団。野球浪人の形でメジャー行きを目指すのでは、と言う“怪情報”まで乱れ飛んでいる。
ここで大きなテーマとなるのが、ポスティングシステムによるメジャー移籍である。
今オフには西武の今井達也投手がアストロズ、ヤクルトの村上宗隆選手がホワイトソックスに。巨人の岡本和真選手もブルージェイズにそれぞれ移籍が決まった。いずれもポスティングを活用したもの。
本来、選手の保有権は各球団が持ち、一定年数を数えればフリーエージェント(FA)の権利が選手に与えられる。しかし、このケースで移籍された場合、球団に金銭的メリットはないが、FA権の短縮を認めるポスティングを活用すれば、選手はより若くして夢を叶えられるし、球団にもメジャー側から譲渡金と言う巨額が手に入る。
ここに目を付ける代理人が近年横行している。佐藤の場合は本来なら海外FA権を取得できるのは最短で2029年のシーズン終了後となるが、代理人のショーン・コバック氏が入ることで、より強硬に要求を突きつける。球団側は本来、複数シーズンにわたり好成績を残さない限りポスティングは認めない方針だけに、交渉は難航してしまったわけだ。
こうした窮状を見かねたのか、岡田彰布球団顧問(前監督)が、解決の糸口を提示した。挑戦への3条件と称した内容は以下のものだ。
①リーグ連覇への貢献
②2年連続の本塁打王
③ファンの理解
要約すれば、1年程度の活躍でなく、複数年活躍してファンも納得の上で気持ちよく送り出せる環境を自ら作れと言うもの。まさに正論である。
佐藤と同じ主砲の村上や岡本は打撃タイトルを複数年獲得し、球団とも数年にわたって話し合いを続け、最後は気持ちよく送り出してもらえる環境を作り出していった。それに比べて佐藤の場合は、唐突で拙速の感を否めない。
「今の形ではイメージが良くないわ。契約せな、後押しも出けへん」と岡田氏は言う。多くの虎党も同じ意見だろう。
2年目を迎える藤川阪神のリーグ連覇を予想する評論家も多い。巨人やDeNAなどライバル球団に不安点が多いのに対して、戦力面は充実している。
そんな王者にも佐藤だけでなく、才木浩人や石井大投手らが近い将来のメジャー挑戦を公言する。
もし、佐藤が不本意な形でシーズンを迎えたりすれば、そこから不安要素が飛び出して来るかも知れない。
プロ野球コミッショナーも、ここへ来て日米の賃金格差を問題にし始める。
一方でMLBアスレチックス傘下に高卒から入団した森井翔太郎やスタンフォード大からメジャードラフトを目指す佐々木麟太郎選手ら、日本のドラフトを経ないで米国に挑戦する若者も増えて来た。
佐藤のようなポスティング問題も含めて、野球界の“日米格差”を真剣に検討する時期に来ている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)