第1回:上茶谷大河(DeNAドラフト1位)
『上茶谷改め「神」茶谷だ!』
ひねった見出しを得意とするスポーツ紙がそう表現した。DeNAのドラフト1位、上茶谷大河のことだ。
確かに最近の投球は神懸っている。7月2日の阪神戦に先発すると、6回途中まで無失点投球で5勝目。自身は5月18日のヤクルト戦から5連勝。新人の連勝記録としては16年の今永昇太らと並ぶ球団最多タイ。この快投が一時は最下位に沈んでいたチームの借金を完済してAクラスにまで押し上げたのだから、監督のA.ラミレスをして「(エースの)今永に匹敵する安定感」と絶賛するのもうなずける。
昨年秋のドラフト会議。球団は競合覚悟で小園海斗(現広島)を指名した。結果は外したが、大学球界ナンバーワンと言われた上茶谷が残っていた。今度はヤクルトとぶつかったが、負けない。近年、今永昇太、浜口遥大、東克樹と即戦力左腕の獲得に成功するチームに待望の右腕エース候補が加わった。背番号は27。往年の200勝投手、平松政次がつけていたエースナンバーに期待の大きさがわかる。
開幕直後は茨の道
プロの船出は茨の道から始まった。4月2日のヤクルト戦に初先発すると7回を1失点の見事なデビューも味方打線が不発に終わり初白星はお預け、続く阪神戦も6回3失点と及第点の投球ながら結果が出ない。すると、そこから4戦で3連敗。投手コーチの三浦大輔は当時の課題をこう指摘する。
「低めにボールが集まっているうちはいいが、試合に入り込みすぎると視野が狭くなる時がある。そうすると、勝負所でボール球が甘くなる」
150キロに迫るストレートにカットボールが鋭く曲がる。素材は文句なしの一級品だが、あと一歩のところで勝てない投球が続くと焦りも生まれる。塁上に走者を許すと大学時代なら打ち取れた場面でもプロは1球の失投を見逃してくれない。いつしか、心の余裕も失っていた。
ようやく自らの投球に光明を見出したのは5月に入ってから。きっかけはこれも三浦コーチの「客観的に自分を見ろ。打者との勝負でまわりが見えていない」というアドバイスだった。ここから快進撃が始まった。
ペナントの命運を握る!?
4日現在、5勝3敗は全ルーキーにあってトップを走る。防御率3.17はリーグ7位と新人離れしている。このペースでいけば2ケタ勝利と新人王も現実味を帯びてくる。だが、このまま白星を積み重ねられるほど甘い世界でもない。
東洋大時代は甲斐野央(ソフトバンク1位)、梅津晃大(中日2位)とともに「三羽烏」と呼ばれた。ある球団OBは「三本柱だったから、逆に一人で投げ切る環境になかった」と不安点を指摘する。
春秋の2シーズン制の大学野球に対してフルシーズンを投げ切るプロでは肉体でも精神的にも、今まで以上のタフさが求められる。長丁場には当然、不調な時期もやって来る。こうした「未知のゾーン」をどう克服していくか?
とは言え、ここへ来てのチームの上昇機運は、上茶谷にとっても頼もしい。筒香嘉智、宮崎敏郎にN・ソトらで組む強力打線に破壊力が増せば、投手にとってこれ以上の援軍はない。さらにチーム急浮上の要因と言われているのがラミレス流の「マシンガン継投」だ。
先発陣が勝ちパターンを作り出せば、試合終盤は、三嶋一輝、S.パットン、E.エスコバーや山崎康晃らの小刻みなリレーで逃げ切る必勝パターン。独走気配の巨人に迫る勢いが今のベイスターズにはある。ひょっとすると、この大物ルーキーがペナントの命運を握る男になるかも知れない。
<中間通信簿:85点>
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)