注目集める“強打の捕手”
8月17日に幕を閉じた、『2020年甲子園高校野球交流試合』。全国各地で行われた独自大会も全日程を終了し、これからはいよいよドラフト会議へ。プロ志望届を提出した高校生の候補たちも話題となっている。
10月26日のドラフト会議に向けて、プロアマ野球研究所(PABBlab)では、この夏に活躍が光った選手について積極的に紹介していきたいと思う。
今回は、下級生の頃から抜群の長打力を発揮していた、“強打の捕手”を取り上げる。
2年の時点で攻守に光るプレー
横山陽樹(作新学院)や二俣翔一(磐田東)といった有力候補が多い今年の高校生捕手だが、そんな中でも「打力に関しては間違いなくNo.1」と見られているのが、日大藤沢の牧原巧汰だ。
そのプレーを初めて見たのは、昨年夏の神奈川大会・対湘南台戦。
「1番・捕手」で出場した牧原は、第2打席でライト前ヒットを放つと、第4打席では低めの変化球を少し泳ぎながらもサーティーフォー保土ケ谷球場のライト場外まで運び、試合を決めてみせた。
また、魅力はその打撃だけではない。
この試合、イニング間のセカンド送球は最速1.92秒をマーク。高校2年の夏としてはかなり高いレベルのタイムであり、キャッチャーとしてのフットワークの良さも目についた。
最終的にこの大会7試合で3本のホームランを放つ活躍を見せ、チームの決勝進出に大きく貢献している。
身体もひと回り大きく…
昨年秋の県大会は3回戦で敗れたため、プレーを見る機会がなく、久しぶりにその姿を見たのは、今年7月28日に行われた相洋との練習試合だった。
この試合も牧原は「1番・捕手」で出場。打撃結果は4打席でノーヒット・1四球に終わったものの、驚かされたのは第2打席でのセカンドフライだ。
高めのボール気味のストレートを叩いた打球は、高々と打ちあがる打球となったが、セカンドが捕球するまでの滞空時間は6.73秒を記録。高校生の打者が6秒を超えることは滅多になく、それだけヘッドスピードが速い証拠である。
この時期は少し太ももを痛めた影響で本調子ではなかったとのことだったが、8月6日の慶応藤沢戦、続く9日の松陽戦では2試合連続のホームランを放ち、改めてその長打力を見せつけている。
筆者は次に行われた13日の藤沢翔陵戦に足を運んだが、この試合でもホームランこそ出なかったものの、第1打席では火の出るような当たりのセンター前ヒットを放つなど、3安打をマークする活躍を見せた。
昨年夏は174センチ・76キロだった体格も、現在では176センチ・80キロと1年間で一回り大きくなり、打席での雰囲気も完全に強打者のそれだ。
パワーがつくと腕力に頼ったスイングになってバランスを崩してしまう選手も少なくないが、牧原の良さは下半身の強さと粘りにある。
藤沢翔陵戦で放ったセンター前ヒットも、追い込まれてからのスライダーをとらえたものだったが、ステップしてから足でしっかりと踏ん張り、わずかな“間”を作って対応していた。
もちろん上半身の力もあり、完璧なタイミングで振り抜けなくても、打球の速さや飛距離が出るのはさすがという他ない。
どの球団もほしい“打てる捕手”候補
一方の守備では、藤沢翔陵戦で2つの盗塁を許したが、いずれも牧原の肩を警戒して意図的にスタートするタイミングを遅らせる「ディレイドスチール」だった。
試合後、本人は少し慌てて力んでしまったと反省を口にしていたが、今後の高いレベルになると、練習の時に見せているようなフットワークを生かしたスローイングが常にできるようになる必要が出てくるだろう。
自身も捕手出身で、多くの捕手をプロ野球や社会人野球に輩出している山本秀明監督も、打撃に関しては牧原がNo.1だと話していた。
守備に関しては、自粛期間が長引いたことで実戦が圧倒的に不足している影響が出ているが、それでも高いレベルで鍛えたいと思わせるだけの力は十分に持っているという。
プロ野球の世界で最も希少価値が高いと言われているのが、“打てる捕手”だ。
90年代以降を見ても、古田敦也や城島健司、阿部慎之助、谷繫元信、会沢翼など、打てる捕手のいたチームが黄金時代を築いており、牧原もそのような選手になれる可能性は十分に秘めている。
本人もプロ志望を明言しており、目指すのは球界を代表する選手と話してくれた。
果たして、この素材をどの球団が狙いに行くのか…。
10月26日のドラフト会議で注目すべき点のひとつと言えるだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所