個人タイトルには表れないエースの力
2021年を迎えて早々に球界の話題をさらったのが菅野智之(巨人)だ。ポスティングシステムによるメジャー移籍を目指していたが、日本時間の1月8日午前7時の交渉期限までにメジャー球団との契約合意に至らず、巨人に残留することが決まった。
昨季の菅野は「開幕投手13連勝」というプロ野球記録を打ち立てたほか、「最多勝」、「最高勝率」のセ・リーグ投手2冠に輝き、「セ・リーグMVP」など数々の表彰も受けた。言わずと知れた巨人の大エースだ。そんな菅野の凄さを示す指標は様々あるが、チームが苦しい時にこそ勝ち星を持ってくる「連敗ストップ率」の高さも、そのひとつだろう。
要するに、所属チームが連敗している状況における先発投手としての勝利率だ。その指標において、昨季の菅野は12球団トップの数字を残している。以下は、2020年シーズンに所属チームが連敗している(引き分けを挟んだ状況も含む)「連敗シチュエーション」において5度以上先発をした投手における連敗ストップ率ランキングだ。
【2020年「連敗ストップ率」ランキング】
※「連敗シチュエーション」において5度以上先発した投手
1位 菅野智之(巨) 83.3%(5勝/6試合)
2位 大貫晋一(De) 80%(4勝/5試合)
2位 九里亜蓮(広) 80%(4勝/5試合)
2位 森下暢仁(広) 80%(4勝/5試合)
2位 岩下大輝(ロ) 80%(4勝/5試合)
6位 小川泰弘(ヤ) 75%(6勝/8試合)
7位 バーヘイゲン(日) 60%(3勝/5試合)
8位 大野雄大(中) 50%(3勝/6試合)
9位 松葉貴大(中) 40%(2勝/5試合)
9位 井納翔一(De) 40%(2勝/5試合)
9位 濵口遥大(De) 40%(2勝/5試合)
9位 松本 航(西) 40%(2勝/5試合)
9位 美馬 学(ロ) 40%(2勝/5試合)
9位 山本由伸(オ) 40%(2勝/5試合)
9位 アルバース(オ) 40%(2勝/5試合)
重圧のかかる状況でもきっちり勝ち切る強さ
菅野は連敗シチュエーションで6度先発して5勝。連敗ストップ率83.3%という数字は堂々の12球団トップだ。
連敗している状況という特性上、5度以上の連敗シチュエーションで先発をしている投手の多くを下位球団の所属投手が占める。たとえば、パ・リーグを制したソフトバンク、セ・リーグ2位の阪神には5度以上の連敗シチュエーションで先発した投手はひとりもいない。
そんな中にあって、巨人で唯一5度以上の連敗シチュエーションで先発していたのが菅野だ。尚且つ6度の登板機会で5勝を挙げている。開幕から13連勝するような投手なのだから、あたりまえといえばあたりまえかもしれない。それでも、チームが連敗している重圧のかかる状況できっちり勝ち切ったあたりはさすが。
「連敗ストッパー」という言葉で片づけるのは簡単だが、昨季の菅野は、チームが苦しいときに勝利をもたらしてくれる、それこそ大エースの働きをしたことがこの数字からもわかる。大きな連敗をしないことが優勝する上で大事になってくることを考えると、そういった存在がローテーションの一角にいることは心強い。
贔屓球団を問わず、野球ファンのなかには「メジャーで活躍する菅野の姿を見たかった」というファンも多いだろう。だが、巨人にとっては、苦しいときに頼れる大エースの残留ほど新シーズンに向けて明るいニュースはない。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)