戻ってきた“岩崎のまっすぐ”
頬はいっさい緩むことなく、感情は推し量れない。
ただ淡々と積み上げた3つのアウト。当たり前に見える“三者凡退”でも、苦しんできた背番号13の復活を予感させるには十分だった。
岩崎優にとって久々の仕事がやってきたのは、6月22日の中日戦。2-1の8回、敵地・バンテリンドームのマウンドに向かった。
リードした場面での起用は、5月25日のロッテ戦までさかのぼる。その試合でレオニス・マーティンに逆転2ランを浴びるなど、交流戦序盤で失点を重ねて6月4日に出場選手登録を抹消。
約2週間の再調整を経て、同18日に一軍再昇格してから2度目の登板だった。
先頭で対峙した福田永将には2球続けて直球を投げ込み、ファーストへの飛球。代打の郡司裕也にはチェンジアップを挟んで、最後は直球で空を切らせて3球三振に仕留めた。
二死から迎えた大島洋平は、9球目のスライダーで空振り三振。6月2日のオリックス戦以来、20日ぶりのホールドを記録した。
投じた14球のうち10球が直球。独特の軌道を描き、球速では量れない威力を持つ“岩崎のまっすぐ”が戻ってきた。
二軍では一度も実戦登板せず、コンディショニングに注力。直球の良化に時間を割いたことがうかがえた。
「誰かのため」「誰かを喜ばせるため」
一軍の全体練習に合流した16日。抑えても、打たれても、黙して語らずの左腕が多くの言葉を発していた。
「自分が抹消されるまではチームが勝ったり、負けたりだったんですけど札幌・仙台で6連勝してくれて、すごい励まされたところがある。同じように調子が良くない選手がいたんですけど、そこで一生懸命、活躍しているのを見て励まされた」
セットアッパーを欠く苦しい状況に追い込まれながら、チームは6連勝で交流戦をフィニッシュ。その間、テレビで欠かさず戦況を見守っていた“8回の男”の心に、響くものがあったことは間違いない。
リフレッシュした体は、仲間の奮闘から得たこれ以上ないエネルギーで満たされていた。時を同じくして、東京五輪を戦う侍ジャパンへの選出も決まった。
26年ぶりのリーグ優勝を目指すチームのため、そして金メダルを狙う日本代表のため…。腕を振る理由はひとつではなくなった。
「(抹消されて)時間ももらったので、自分としてはオールスター、オリンピックまでは1点もやらないぐらいの気持ちでやっていきます」
タテジマのユニホームに袖を通して以来、目立つことを避け名声を得ることには興味を示してこなかった。入団8年目、6月19日に30歳となった岩崎の力の源は「誰かのため」「誰かを喜ばせるため」にある。
ペナントレース、東京五輪とフル回転は臨むところ。刺激的な夏を過ごし、歓喜の秋へ邁進する。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)