主将を奮い立たせる厳しい言葉
どの組織でも同じだろう。ついた肩書の分だけ、ポストの重さだけ、直言する周囲の人間は減る。
中日・三ツ俣大樹は、1学年下の主将・高橋周平に言うことは言う。前半戦で打率.254と低迷し、再起を誓って五輪期間を過ごす主将へ向けて、厳しい口調で語りかけていた。
高橋「ぼくが打てなかったから負けた試合ありますよね。分かっています」
三ツ俣「1試合、2試合じゃないから。結構、たくさんあるぞ。周平がしっかりしないといけないチームだから。俺は俺でもちろん頑張るけど、周平は周平で頑張れよ」
高橋周「10試合とかありますもんね…。頑張ります」
二軍時代からの付き合いがあるから、年齢を超えて言い合える。
高橋周平にとって、口酸っぱく、うるさく言ってくれる人は数少ない。三ツ俣も貴重な1人となる。
チャンスを掴みかけたところで…
グラウンドだけの付き合いではないからこそ、三ツ俣のケガは悔やまれる。
後半戦開幕となった8月13日の巨人戦(東京ドーム)。「7番・二塁」でスタメン出場し、2打席目には右前打を放つも、下半身の異常を訴えて途中交代。翌14日に出場選手登録を抹消されている。
チャンスだった。レギュラーの阿部寿樹が上半身のコンディション不良で長期離脱中。2年目の石川昂弥も死球による骨折でリハビリ生活を送っている。
アピールは9日のエキシビションマッチ西武戦(バンテリン)。「8番・遊撃」で先発出場し、3回無死一塁で西武・髙橋光成から左翼席へ2ラン。3打席連続安打もマークした。
その1試合で終わらない。翌10日の同カードでもマルチ安打をマーク。後半戦開幕スタメンをつかんでいた。
五輪日本代表で金メダルに輝いた師匠へ、活躍を届けたかった。
オフは毎年、広島・菊池涼介と体を追い込む。他球団の選手は三ツ俣ただ一人。「試合に出るために何が必要か考えろ!」。この言葉が耳から離れない。
バントと右打ち。一軍で生き抜くための武器を磨いた。
「菊池さんが上手なところです。勉強してきました」
リハビリは始まったばかり。足を引きずりながら途中交代したが、もう歩くのに不自由はない。
借金苦にあえぐドラゴンズ。早期復帰が求められる。主将の隣には、“小言の多い”三ツ俣が必要なのだ。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)