逆襲期す広島の「実戦漬けの秋」
広島の秋は、いつもと違った。
今季は4位と低迷。クライマックスシリーズや日本シリーズが行われている最中、11月8日から21日まで本拠地・マツダスタジアムを拠点に秋季練習を行った。
異例だったのは、第2クールまでの8日間で4度の紅白戦を実施したこと。若手を鍛える期間としてだけでなく、来季の戦力を見極めるために多くの時間を割いた。
佐々岡真司監督は、二軍練習に参加していた中﨑翔太や一岡竜司ら、中堅投手もマツダに呼び寄せて紅白戦に登板させた。首脳陣は、選手の年齢や過去の実績などの色眼鏡を取っ払い、結果や内容に目を凝らしていた。
そうした実戦漬けの秋、計12日間はあっという間に終了。そこで今回は、紅白戦4試合で来春に向けてのアピールに成功した注目選手を取り上げてみたい。
磨きがかかった打撃技術で猛アピール
野手は育成選手も一軍に同行させるなど、若手中心のメンバー構成。実績の乏しい若手にとっては、来春キャンプの一軍スタートをかけた絶好のアピール機会だった。
その中で、頭一つ抜けた存在感を見せた若ゴイがいた。高卒3年目の羽月隆太郎である。
紅白戦は計13打数5安打、打率.385。1番打者として全4試合中3試合で1打席目に出塁するなど、内容も十分にアピールした。
初球から確実に捉えられるバットコントロールで内野の間を抜き、追い込まれれば粘り続けて四球も得られる。一軍定着を目指す若手と比べれば、打撃技術の高さは抜きん出ていた。
俊足が最大の長所ながら、打力も高く評価されてきた。昨季のウエスタン・リーグの打率は.349(149-52)と、二軍では力の差を見せていた。
そして、今季はプロ初本塁打もマーク。身長167センチの小兵から生まれる力強さは、確率高く球を芯で捉えられる技術の高さに他ならない。
その打撃技術は、さらに磨きがかかっている。
今オフから、バットを長く持つようにした。ゆったりと振り始めることを意識することで、球を長く見られる感覚が身についたと言う。オフ期間に入る前に目指すべき形を把握できたことは収穫だろう。
正中堅手争いに期待?
今季は評価を高めたと同時に、不運なシーズンでもあった。
開幕前に外野に挑戦したことで起用の幅が広がり、56試合に出場。一時は1・2番での先発が続くなど、評価はうなぎ登りだった。
しかし、5月に新型コロナウイルスに感染して離脱…。6月中旬には一軍に復帰するも、筋肉量が落ちるなど本調子を取り戻すために時間を要した。
さらに8月には「右手有鉤(ゆうこう)骨鉤骨折骨片摘出術」を受けるなど、実力以外の部分で一軍と二軍を行き来した。
そんな不測の事態も乗り越えて、今秋の実戦で再び首脳陣を認めさせることに成功した。次は、どの守備位置の競争に加わるかが大きなポイントになる。
本人は本職の内野が第一希望。ただ、レギュラー不在の「センター争い」の一角に割って入ることができれば、定位置取りの可能性は高まるだろう。
センターの現状を見ると、野間峻祥と宇草孔基の一騎打ち。この構図を変えることで、チーム内の競争を活性化させる役割も期待されている。
投手では「実績組」が意地
一方の投手は、シーズンを通して一軍で奮闘した森下暢仁や栗林良吏らの主戦だけでなく、島内颯太郞や森浦大輔といった若手救援陣も紅白戦の登板が免除された。
その中で登板を課された中堅組の胸中は穏やかではなかっただろう。特にリーグ3連覇時の守護神・中﨑翔太の意地が目立った。
中﨑は2019年11月に右膝、2020年9月には右上腕部を手術するなど、このところは常に故障に泣かされてきた。
今季の登板は4試合のみ。一軍では開幕から勝ち継投が流動的な状況でも、6月上旬の降格を最後に一軍から声がかからなかった。
こうした厳しい立場を跳ね返すべく、紅白戦で今季最速となる150キロを計測して変わり身をアピール。1試合目の登板では17球中15球で直球を選択して、2イニングを完全投球。直球にキレが戻り、佐々岡監督ら首脳陣を驚かせることに成功した。
10月の「みやざきフェニックス・リーグ」にも参加するなど、シーズン後も実戦登板を繰り返して状態を上げてきた。
特に腕の振りの強さが不振期間とは明らかに違う。身体に不安がなくなったことを投球フォームが証明していた。
今季の救援陣は、場数の少なさを露呈した。僅差の試合終盤に起用されると、本来の姿を見失う若手投手が目立った。経験豊富な中﨑がブルペン陣を支えることができれば、チームに与える好影響は計り知れない。
二軍に同行する中堅選手を紅白戦に呼んだことは、来季の優勝に欠かせない存在であるという首脳陣からのメッセージでもあった。
中﨑に加えて一岡竜司、中田廉らの実績組も高い集中力を持って実戦登板に臨み、来春キャンプの一軍スタートに向けてアピールした。
紅白戦を組まず、若手を徹底的に追い込む期間にする選択肢もあっただろう。それでも、首脳陣は実戦を通して競争を促した。
来春のポジション争いが想像以上に激しさを増していれば、実戦漬けの秋は成功だったことになる。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)