コラム 2021.12.30. 07:08

2021年のプロ野球「こんなこともありました」 思わずほっこりした“ちょっと良い話”

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真剣勝負の中には“ほっこり”するシーンも (C) Kyodo News

「梶谷とエスコバーの友情」


 2021年も残りわずか…。1年の終わりに、プロ野球・2021年シーズンをしみじみと振り返っていきたい。

 今回は「思わずほっこりさせられるちょっと良い話」と銘打ち、試合中や試合後に起こった心が和むひとコマを紹介する。




 たとえチームが変わっても、2人の友情がいささかも変わっていないことを印象付ける微笑ましいシーンが見られたのが、5月11日のDeNA-巨人だ。

 2-2の7回のこと。巨人は二死無走者で、1番・梶谷隆幸が当たり損ねの投ゴロを転がした。

 直後、エドウィン・エスコバーが素早くグラブを差し出して捕球すると、ボールを持ったまま、一塁線目がけてダッシュ。一塁へ向かう梶谷を“通せんぼ”する形になる。

 これはどう転んでもアウト。「もはやこれまで」と観念した梶谷は、スピードを緩めて立ち止まると、「さあ、タッチしろよ」とばかりに右手を差し出した。

 すると、エスコバーもフレンドリーな笑みを浮かべながら、左手で“エール交換”をしたあと、右手のグラブで優しく梶谷のお尻にタッチ。3アウトでチェンジになった。


 今季DeNAから巨人にFA移籍した梶谷は、エスコバーとは足掛け4シーズンにわたるチームメイト。

 気心の知れた者同士とはいえ、熱戦の最中に見られた紳士的な交流シーンに、ほのぼのさせられたファンも多かったことだろう。


「心中お察しします」


 今度は、チームの異なる投手2人の“きまりが悪い共通体験”から生まれた友情物語である。

 思わず目が点になるような珍事が起きたのは、令和の怪物・佐々木朗希がプロ初登板初先発デビューを飾った5月16日の西武戦だった。

 6-4とリードしたロッテは、7回にもレオニス・マーティンの二塁打と中村奨吾の四球で一・二塁と追加点のチャンス。ここで西武・辻発彦監督は、伊藤翔から左腕・小川龍也につなぎ、安田尚憲を左飛に打ち取った。

 すると、ロッテ・井口資仁監督も、次打者・角中勝也に代えて右の代打・井上晴哉を送り出す。そして、井上が打席に入った直後、想定外のハプニングが起きる。

 なんと、交代を告げられてもいないのに、十亀剣がリリーフカーに乗って登場してくるではないか。これには、辻監督も「オレはまだ代えてないぞ」と言いたげに怪訝そうな表情を見せた。

 審判がタイムをかけ、場内が騒然とするなか、リリーフカーもファウルエリアに入ったところでストップ。お呼びでないのに出てきたことに気づいた十亀のうろたえるさまに、場内は大爆笑となった。


 西武ベンチの伝達ミスが原因だったようで、このあと辻監督が川口亘太球審に遅まきながら十亀への交代を告げ、これにて一件落着。

 リリーフカーを再発進させ、マウンドに上がった十亀は、ハプニングの影響もなく、井上をフルカウントから空振り三振に仕留めてみせる。無失点で切り抜け、名誉挽回とばかりにガッツポーズを見せた。


 試合後、そんな十亀にエールを贈ったのが、阪神の岩貞祐太だった。

 実は、岩貞は5月9日のDeNA戦の7回、馬場皐輔が投球練習を終え、先頭打者に相対しようとしたとき、十亀同様、交代を告げられていないのに、リリーフカーで登場する失態を演じたばかり。

 十亀の“受難”を知った岩貞は、この日のInstagramのストーリーで「心中お察しします」と投稿。これに対し、十亀も同日ストーリーを更新し、「恐れ入ります」と返信。これも不思議なご縁と言えるだろう。


「ベテランのフェアプレー精神」


 最後は、プロ野球界にフェアプレー大賞があれば、文句なしで贈りたくなるような良い話で締めくくりたい。

 11月24日の日本シリーズ第4戦。2勝1敗のヤクルトは、2-1とリードした7回二死無走者で2番・青木宣親が打席に立った。ここは何としても出塁して、クリーンアップにつなげたい場面だ。

 ところが、カウント1ボール・2ストライクから富山凌雅が投じた5球目。直球が内角高めに食い込み、青木の右手首付近を直撃する。避けようとした青木はその場に倒れ込み、ボールは当たった瞬間の衝撃を物語るかのように大きく弾んだ。


 白井一行球審が死球を宣告し、一塁を指差したが、当たった箇所が箇所だけに、重傷でなければいいが…と心配された。トレーナーも駆け寄り、高津臣吾監督もベンチ前で顔を強張らせて、成り行きを見守っている。

 だが、幸いにも大事には至らず、青木は何事もなかったように起き上がった。そればかりでなく、なんとバットのグリップエンドを指差し、死球ではなかったことを正直に告げたのだ。

 過去の日本シリーズでは、当たってもいないのに「当たった!当たった!」とアピールした選手がいたほか、死球でもないのに危険球と判定され、無実の投手が退場させられるという事件も起きている。

 球審が死球と判定しているのだから、チームの勝利のために黙って一塁に行く選択肢もあったのに、自ら「当たっていない」とアピールするのは、まさにフェアプレー精神の賜物だった。


 これには白井球審も驚いた様子だったが、すぐさまファウルを宣告して試合再開。青木は次の6球目を打って遊ゴロに倒れ、追加点はならかった。

 だが、正直の頭に神宿る。ヤクルトは8回・9回のピンチを切り抜け、そのまま2-1で逃げ切って3勝1敗と日本一に王手をかけた。

 その後の結末はみなさんもご存知の通り。つづく第5戦は5-6で落としたものの、第6戦に勝利して、20年ぶりの日本一を掴んでいる。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)



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