若手中心の一軍キャンプ
今季から一軍担当に復帰する広島・東出輝裕野手総合コーチは、「チャンスはピンチ」とこれまで何度も口にしてきた。
与えられたアピール機会を生かせなければ、今後二度と出番が回ってこないかもしれないからだ。
今年の春季キャンプでは、松山竜平ら実績組が二軍での独自調整を認められ、一軍は若手中心のメンバー構成となった。それは、若ゴイにとって例年以上にふるい落としにかけられる「ピンチ」が数多く待っていることを意味している。
この危機を「チャンス」に変えられるか──。
今回は一軍スタートを勝ち取った若ゴイの注目選手を投打から一人ずつ取り上げたい。
内野転向の二俣は天性の打力が開花するか
野手では高卒3年目の持丸泰輝、同2年目の二俣翔一の育成2選手が一軍に抜てきされた。なかでも二俣の潜在能力の高さは見逃せない。
二俣は磐田東高から2020年ドラフト育成1位で入団した右の強打者である。
捕手としては高校3年時に二塁送球1秒79をマーク。プロの捕手でも2秒を切れば上々と言われるだけに、同年のドラフト指名候補の中で肩の強さはトップクラスだった。
ただし、広島の捕手陣の層は12球団の中でも随一。正妻の會澤翼を筆頭に、坂倉将吾や石原貴規、中村奨成らがそろい、捕手として出場しようと思えば、相当な時間がかかることは間違いなかった。
そこで打力を高く評価していた二軍首脳陣は内野へのコンバートを模索してきた。
昨季のウエスタン・リーグでは捕手16試合、三塁12試合と、ほぼ均等に出場機会を与えられ、初めて一軍に合流した昨年の秋季練習でも三塁での特訓が続いた。そして今季からは内野手登録に変更されることになった。
強肩捕手としても評判だった選手をわずか1年で内野手に転向させたのは、天性の打力を生かすために他ならない。
高校通算21本塁打のパンチ力はプロでも健在。昨季のウエスタン・リーグでは打率.218と低調ながら、141打席で4本塁打をマークした。
1本塁打あたりに要したのは35.3打席。過去の高卒新人と比較すると、同リーグで高卒1年目シーズンに球団最多7本塁打を放った堂林翔太は計386打席に立っており、1本塁打あたり55.1打席、同じく7本塁打だった林晃汰は計348打席で1本塁打あたり49.7打席だった。つまり彼らを上回るペースで本塁打を放っていたことになる。
1月の合同自主トレを見る限りでは、昨季以上に力強さが増しているように映る。打撃練習とはいえ、タイミングよく豪快に強振できるのは打撃技術の高さゆえだ。
二俣自身は「変化球を片手で拾えるのは自分の持ち味」と自己評価する。その対応力を実戦でも見せられれば、その能力は広く知られるところになるだろう。
高卒2年目の小林は先発ローテ入りの期待が高まる
投手では、高卒2年目・小林樹斗への期待が高まっている。
智弁和歌山高から2020年ドラフト4位で入団した最速152キロ右腕。スライダー、カーブ、スプリットなどの持ち球の中でもカットボールの切れ、制球はともに抜群だ。
昨季は球団の高卒1年目では9年ぶり4人目となる先発を経験。シーズン最終戦の11月1日のヤクルト戦で山田哲人、村上宗隆から計3個の三振を奪う強気の投球を披露し、佐々岡真司監督から「楽しみなのは間違いない」と言わせた逸材である。
今季は開幕ローテーション入りを目標に掲げている。
大瀬良大地、九里亜蓮、森下暢仁は、調整さえ順調に進めば先発入りが確実で、床田寛樹も実戦で本領を発揮できれば開幕ローテの有力候補に挙がるだろう。つまり開幕ローテーション入りを賭けて残る2、3枠を争う構図となる。
新外国人のアンダーソンの来日時期は見通せず、日本人だけでの争いになる可能性が高い。玉村昇悟、高橋昂也は昨季途中から先発を守った経験があり、大道温貴、遠藤淳志らも虎視眈々と先発入りを狙っている。ここにドラフト1位・黒原拓未(関学大)、同2位・森翔平(三菱重工West)の新人も加わるなど競争は昨季以上に激しそうだ。
その中でも小林は、将来性を見越した抜てきではなく、今春の結果で正々堂々と先発争いを勝ち抜くだけの能力を持ち合わせている。
昨季に二軍戦でバッテリーを組んだ経験のある磯村嘉孝は「直球が強いから空振りもファウルも取れる。しかも、直球だけではなくて、変化球も全部制球できる」と証言する。
昨季にチームが与えた483四球はリーグワーストだった。佐々岡監督は四球減を今春のテーマに掲げているだけに、制球力を武器に小林が開幕ローテしても驚かない。
二俣も小林も高卒2年目だ。生きの良い若手が今春を絶好のアピール機会と捉えて、出番を心待ちにしている。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)