「緊張していたんですけど…」
宜野座に現れた「新星」は、シーズンで大きな「戦力」に変ぼうするかもしれない。
タイガースの春季キャンプも終盤に突入。投手陣で存在感を高めてきたのが、新潟医療福祉大からドラフト3位で入団した桐敷拓馬だ。
はじめての実戦形式のマウンドとなった15日に行われたシート打撃で持ち味を発揮。打者5人と対峙し、無安打・1奪三振の“好投”を披露した。
「緊張していたんですけど、まず自分のピッチングをしていこう、っていう思いでマウンドに上がりました」
そんな言葉とは裏腹に、地に足を着けて腕を振った。
ハイライトは、昨季22本塁打を放った中軸のジェフリー・マルテとの対戦。
初球からストレート、チェンジアップで簡単に追い込むと、最後は5球目に投じた内角への129キロのスライダーで三ゴロに仕留める。
バットを真っ二つに折る締めくくりで、ベールを脱いだ。
指揮官も期待「どこでも使える」
「自分の中で課題としてコントロール。ストレートだけじゃなく変化球が課題だったので、まず一つ見せることができたので。コースを間違えなければうち取れることもわかったので、自信になったので、この1カ月でもう一回修正していきたいなと思います」
近本光司には四球を献上も、直後の遠藤成を得意のフォークで空振り三振に仕留めるなど、セットポジションになっても崩れない安定感が見て取れた。
勝負球にしているフォークをはじめ、ツーシーム、スライダー、チェンジアップと多彩な変化球も披露。
結果はもちろん、強気の内角攻めなど貫く投球スタイルを体現した投球を「100点中70点ぐらい。決めきるところ、ストライクを取るところであったり、打たせたいってところ、できていない部分もあったので。初めてで力んだのでそういうところが減点」と手応えと課題を、忠実に数字に表した自己採点も絶妙だった。
22歳左腕の台頭を喜んだのは矢野燿大監督だ。
「先発でも中でもいけるし、(打者の)右でも左でも関係なく、どこにはめても、どこでも使えるというのが、俺的にもチームにとってもありがたい」。アマチュア時代は先発も、プロでの起用法の幅は広がりそうだ。
チームは昨季まで2年連続セーブ王のロベルト・スアレスが退団し、ブルペンに大きな穴が空いた状態。
昨年、一軍で経験を積んだ選手たちの伸びしろに期待する一方で、ここまで実戦で目立ったアピールが乏しかった若手中継ぎ陣にも刺激を与えそうな、背番号47のパフォーマンスになった。
初めて参加するプロのキャンプはコロナ禍。
外出や外食もできない中、自室からコバルトブルーの海を眺め、「大学の時も海が近くにあったので、気分転換じゃないですけどそういうのはできた」と制限された環境の中でもオン、オフの切り替えを行っている。
今後は対外試合での登板が予定され、ライバルたちとの開幕一軍争いが本格的に始まる。
「目標は開幕一軍なんですけど、先のことよりも目先の1日1日を大切にして、結果的に開幕一軍という目標を達成できたらいいなと思っています」
開幕までに、足りなかった30点をどこまで埋めることができるか。
ルーキーの挑戦は次のステージに移る。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)