打席に立つことなくマイナーへ
2013年のMLBドラフト会議でヤンキースから2位指名を受けたあの選手が再び苦境に立たされている。
その選手の名前は、日米両方の国籍を持つ加藤豪将。ブルージェイズの招待選手として参加したスプリングトレーニングで結果を残し、苦節10年目で待望の開幕ロースター入りを果たした27歳だ。
現地時間9日のレンジャーズ戦では代走として出場を果たし、初めてメジャーの土を踏んだ加藤。次はスタメンか、それとも代打かと期待を抱いたファンも少なくなかっただろう。
ところが、チームはデビュー翌日の10日にマイナー行きを通告。加藤は再び過酷なマイナーの環境から、メジャー復帰を目指すことになった。
代打起用すらなかったチームの非情な決断には、「もっとチャンスを与えてほしかった」という悲痛な思いを抱くファンもいれば、「今回は残念だったけど、きっとまたチャンスは来る」と前向きにとらえるファンもいた。
“契約社会”で知られるメジャーリーグでは、今回の加藤のようなケースは決して珍しいことではない。
『ベースボールキング』でも、過去にこうしたメジャーのドライな一面を取り上げた記事を掲載したことがある。昨年9月に寄稿した『ツインズの冷徹な仕打ちに非難殺到…大谷翔平の元同僚は“もらい事故”?』という記事では、当時ツインズに所属していたドリュー・マッジという選手について取り上げた。
シーズン閉幕も迫った9月中旬に悲願のメジャー昇格を果たした32歳の内野手だったが、2試合にベンチ入りをしたものの、試合中に監督から名前を呼ばれることはないままマイナーにUターン。“苦労人”として地元メディアなどでは大きく取り上げられていただけに、この冷徹とも言える仕打ちには地元ファンから大ブーイングが起こった。そのマッジは昨オフにFAとなり、次なるチャンスを求めてフィリーズに移籍。現在は3Aからメジャー昇格を目指している。
また、2018年3月に寄稿した『通算出場“わずか1試合”の野球人生』という記事では、「メジャー通算出場1試合」の中でも特に印象的な2人にフォーカス。この記事の中で取り上げた野球映画「フィールド・オブ・ドリームス」に登場するムーンライト・グラハムという実在する野球選手は、公式戦1試合の出場のみで現役を引退。それも守備からの途中出場で、“打席に立てなかった悲劇の選手”として、アメリカでは有名だ。
現時点ではメジャー通算1試合出場で、グラハムと同じように打席には立てていない加藤。それでも、年齢的にはまだまだメジャーの舞台に這い上がるチャンスがあるはずだ。スタンディングオベーションの中でメジャー初打席を迎える日を楽しみに待ちたい。
文=八木遊(やぎ・ゆう)