ベストナインの中野をコンバートする意図
「遊撃」でひたすらボールを追いかけ、泥にまみれた秋だった。
高知県安芸市で3年ぶりに行われたタイガースの秋季キャンプは、21日に打ち上げを迎えた。「秋が一番伸びる」と言い切る岡田彰布新監督のもと、レギュラー奪取を狙う若手たちがそれぞれのポジションで成長、進化、そしてアピールを試みた。
高卒4年目の小幡竜平もその一人だ。就任早々から指揮官の“色”を反映する起用がなされ、期待の高さがうかがえた。
今季は主に二塁で出場していた背番号38が、本職だった遊撃に再コンバートされたのは10月のみやざきフェニックス・リーグ。当時は二軍監督だった平田勝男ヘッドコーチに、岡田監督から「小幡は遊撃で固定」と指令が飛んだ。
秋季キャンプ中、監督が守備力を重視する遊撃レギュラーの条件の1つに挙げたのは「肩」。ホームの甲子園はイレギュラーバウンドも多い天然芝とあって、「良い体勢で捕球できることは少ないからな。そういう時に最後生かされるのは地肩」と説明した。その意味でも、チーム随一の強肩を誇る「遊撃・小幡」はうなずけた。
ここ2年連続でレギュラーを張った正遊撃手の中野拓夢を二塁にコンバートしてまで、強肩のショートを求める監督。小幡本人も意気に感じないはずがなく、「二遊間は人は多いですけど、その中で一番アピールできるように。アピールポイントは肩なので、そこを見せられたら」と、お眼鏡にかなう守備力を見せるべく意気込んでいた。
頭角を現した対抗馬
本命・小幡で動き出した遊撃争い。だが、キャンプが始まってから徐々にその形勢は変化していった。
「再び」という形で存在感を示したのが木浪聖也。1年目の2019年に113試合出場を果たすなど、レギュラーを勝ち取りながら、ここ2年は中野にポジションを奪われる形に。今季も41試合の出場にとどまっていたが、この秋に岡田監督の目に留まる。
「ちょっと再発見やな。思っている以上に肩は強い」と、ここでもやはり肩の強さを評価。元々打撃には定評があり、攻守の総合力では小幡を上回る存在と言えた。
この秋で2人に明確な差はつかず、決着は来春に持ち越された形。岡田監督は「最初は簡単に小幡でいこう思ったけど、簡単にいけへんようになってきたなぁ、木浪を見たら。ショートは打たんでもいいと思ってたけど、これは小幡も打たんとな。上のレベルでの悩みやから困ってるけど、嬉しい困り方」と、木浪の猛烈な追い上げを強調した。
当初は守備力が判断基準になっていたが、木浪の出現で打撃も求められる様相。連日の早出特守で、二塁時にはそこまで意識しなかった送球までの足の運びや、さばき方を反復練習でたたき込んだ小幡も「力強さが必要になってくる。オフはそこをやるだけ」と、課題である打撃へ意識を向けることを忘れなかった。
岡田監督は3月のオープン戦からレギュラーを固定する方針で、レギュラーシーズンでも各ポジションで複数選手の併用には否定的。すなわち、指揮官の前でアピールできるのは来年2月の春季キャンプの1カ月だけというだけでなく、そこで来季の命運も決まる可能性すらある。
課題克服と長所を磨くオフを経て、開幕戦で遊撃の位置に立っているのは小幡か木浪か、それとも……。定位置争いはあっという間にクライマックスを迎える。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)