「最高のチームメート」に背中を押され
ファンに、仲間に、そして、聖地に送り出してもらった。
21日、阪神からポスティング・システムを利用してオークランド・アスレチックスへの入団が決まった藤浪晋太郎が行った記者会見は、ハートウォーミングなシーンが相次ぐ“お別れ会”だった。
場所は甲子園球場。球団事務所やホテルではなく、球団の粋な計らいもあり、高校時代から慣れ親しんだ場所にスーツ姿で立った。
「いろいろ良い思い出、悪い思い出、たくさんありますけど。すごく良い経験をさせてもらったなと思いますし、阪神タイガースの藤浪晋太郎で良かったなと本当に思っています」
1年目から3年連続で2ケタ勝利を挙げて華々しくスタートしたキャリアも、ここ数年は不振に苦しんできた。
大阪桐蔭高時代から始まった栄光に、屈辱の記憶が上塗りされていった近年。それでも「自分を育ててくれた球場であり、職場であり。いろんな思い出、良い思い出、悪い思い出、たくさん詰まった大好きな球場」と表情を緩めた。
途中、バックスクリーンにはチームメートたちからの“はなむけの言葉”が動画で流されるサプライズ演出があった。
同期入団の北條史也は普段通り「藤浪」と呼び、「一緒にお立ち台がなかったのが心残り。大谷に負けないように頑張れ」と激励。長年バッテリーを組んできた梅野隆太郎は「胸張って頑張ってこい」と背中を押した。
「チームメートもこうやって送り出してくれることにすごく感動しています。泣きそうです。最高のチームメートだと思っています」
孤独なマウンドで腕を振り続けてきたからこそ、噛みしめることができた仲間の存在だった。
「より頑張らないといけない」
スタンドにはファンの姿もあった。
偶然にもこの日は年間指定席の販売会が実施されており、会見と“バッティング”。時に優しく、時に厳しく……背番号19の紆余曲折をその目で見守ってきたファンに対しては「もっと貢献できて良い形でファンの方に見送ってもらえたら一番良かったんですけど」と心残りも口にしながら、「(アメリカで)勝負するところを見ていただけたら」と決意表明した。
会見を終えた藤浪は少々、驚いていた。
「もっといろいろ言われてもおかしくなかったというか、本当に盛大というか。めちゃくちゃ貢献して出て行くような…(笑)。すごい送り出し方をしてもらっているので、より頑張らないといけないなと」
海外FA権取得ではなく、満足のいく数字を残せない中、自らの強い希望を球団に了承してもらっての挑戦。後ろ指をさされる覚悟もしていたが、そんな空気感とは真逆だった。
だからこそ、日本から米国へ持って行く“使命”もある。
「人間誰しも良い時、悪い時たくさんあると思うのでどこかしら重なる部分もあるのかなと。ここ数年パッとしなかった藤浪でも頑張ってるなってちょっとでも思ってもらえたら」
甲子園からメジャーへ──。藤浪にとってこれ以上ない旅立ちの日だった。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)