「ファームは肉体的な疲労って感じですけど…」
試合後、その表情には経験したことのない疲労感と、勝利への充実感が混在しているように見えた。
シャワーを浴びて私服に着替えたタイガースの小幡竜平は、待ち構える報道陣に軽く会釈をしながら足早に愛車の元に向かった。
同じ寮生で、まだ車を持っていないドラフト1位の森下翔太を助手席に促すと、少しだけ話しをすることができた。
「ファームは肉体的な疲労って感じですけど、一軍はやっぱり精神的な疲労がすごくありますね」
さっきまでグラウンドで繰り広げられていた死闘の余韻が、まだ体に残っているようだった。
期待と重圧を好結果につなげた22歳
ベイスターズとの開幕2戦目だったこの日は総力戦となり、延長12回二死満塁から近本光司の中堅越えサヨナラ打で決着。小幡も二死走者なしから右前打で劇勝への扉を開いた糸原健斗に続いて、四球で好機を拡大して仕事を果たしていた。
何より、遊撃で12回までフル出場して無失策。開幕してまだ2日目のことだったとはいえ、昨年まではファームが主戦場だった22歳にはあまりに刺激的で、緊張感ある時間だったに違いない。
岡田彰布監督が就任した昨秋から強肩を評価し、レギュラーとして抜擢する可能性を口にし続けてきた逸材。今春キャンプでは先輩の木浪聖也が打撃で猛アピールし、一時は指揮官の評価も覆った時期もあったが、開幕前最後のオープン戦となったオリックス3連戦ではすべて遊撃でスタメン出場した。
監督も「守備とかいろんな意味を含めて。全部で」と成長著しい有望株に内野の“要所”を託す理由を口にしている。躍動か、空転か。若さゆえの勢いか、気負いか。針はどちらに振り切れるか分からなかったが、背番号38は期待と重圧を好結果につなげて見せた。
中継プレーの裏にあった“計算と読み”
開幕戦では、ずっと課題と言われてきた打撃でいきなり3安打をマーク。先述の通り2戦目も1安打に加え、延長12回に価値ある四球をもぎ取って守備も安定感を見せた。そして3戦目には、岡田監督が目をつけていた自慢の「肩」が効いた。
7回、4点リードから1点を返され、なお二死一・三塁で宮﨑敏郎の打球は左中間フェンスを直撃。三塁走者は悠々と生還し、さらに一塁走者も三塁を回る。
小幡は遊撃の定位置から深く追って中継地点に到着。近本からの送球を無駄のない動きでつないで、ワンバウンドで本塁へ返球した。
ボールはやや左に逸れたものの、捕手・梅野隆太郎のミットに収まった場所に一塁走者が突っ込む形となり、結果は“ドンピシャ”のタッチアウト。1点差に迫られるところを2点差でキープし、3アウトで反撃の空気もかき消した。
「京セラはバウンドにすれば、すごく加速してくれる。計算してうまく投げることができた。(ノーバウンドで)無理することなく人工芝を生かして投げられた」
時間にして数秒の“必殺プレー”には、プロ5年目内野手の計算と読みが仕込まれていた。
「開幕戦は初めてで、すごく緊張したところはあったけど、それ以降は落ち着いてプレーできている。もっともっと良くなるように」
トップレベルでの実戦が、何よりの肥やしになる。リアルタイムで進化と成長を遂げる小幡竜平が、岡田野球の申し子になる。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)