「僕も高校生(高卒入団)だったから分かる」
2月、沖縄・具志川の2軍キャンプのメーングラウンドで若手選手のフリー打撃を眺めていると、隣接するサブグラウンドから威勢の良い声が次々に耳に飛び込んできた。
「この練習はバッティングに生きるぞ」
「いろんなことにつながるんだぞ」
徐々に大きくなっていく声の主は2人いて、原口文仁と糸原健斗だった。
ともに岡田彰布監督から調整を一任されて今春は2軍スタート。この時は、高卒ルーキーの山田脩也、百﨑蒼生らと特守に励んでいた。
キャンプ後半からの1軍合流へ向けて自身のコンディションを上げていくことに集中することが主目的でも、泥だらけになったユニホーム、枯れた声を耳にすると2人の具志川での“取り組み”はまた別ところにあるように感じた。
数日後、原口にあの時の特守…いや、あの時間について話を聞いた。
「僕も高校生(高卒入団)だったから分かるけど、プロはこうやって声も出すっていうのはテレビ見てただけじゃ分からないから。高校野球も声は出てるけど、プロ野球もこうやって声出てるんだなと(山田や百﨑が)気づいてくれたらいい」
野球を始めた小さい頃から教えられ体に染みこんでいる「声を出すこと」の重要性はトップレベルのプロ野球でも変わらないのだ。
特守の時のように練習で士気を上げるためだけでなく、常に大歓声の甲子園球場を本拠地にするタイガースの選手は「声」をより大切にしなければいけないという。
原口は続けた。「大観衆でやるってなったら声ももっと必要だし、ジェスチャーとかも必要。今はファームで人がそこまで多くない中で声が通るかもしれないけど、もっとすごい1軍の舞台になったら聞こえなくてぶつかったりするので大事かなと」
故障やミス防止の実用的な部分は、高卒15年目の原口が口にするからこそ説得力が増す。
キャンプ序盤には自ら音頭を取って2軍組の野手を集めて食事会も開催。選手としては高卒入団、グラウンド外では父親でもある32歳は“親心”をにじませた。
「みんな最初は緊張の中でやってる。自分も高校生(高卒入団)で経験してるしお母さん、お父さんもまだ高校生の子を送り出してる心配な部分もある。みんなとうまく接して良いものを見せられたら親御さんも安心するだろうし。早く自分のプレーができるように、良い機会じゃないかなと」
2月中旬には1軍に合流したため、具志川で汗を流した期間はわずか2週間だ。それでも、原口や糸原の年長組が残したもの、伝えたものは少なくない。
次代を担う若虎たちがその“財産”を目指す1軍の舞台でどう生かすか。
聖地でその「声」を響かせ躍動する日は必ずやって来る。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)