最終回:手にした収穫と課題を糧に
「プレミア12」と前後して行われたラグビーのW杯。日本代表は世界の列強相手に念願のベスト8入りを果たして、熱狂を巻き起こした。
大会終了後のインタビューで、「笑わない男」稲垣啓太が開幕のロシア戦を語っている。
「試合開始前はそんなに緊張していなかったはずが、キックオフ直後は全員が固くなって意思疎通も出来ずにミスが続いた」。
国と国が威信を賭けて戦うナショナルマッチ。プレミアもまた国別対抗ながらW杯となると命のやり取りをするくらいの緊張感が襲うようだ。稲葉ジャパンも来年は東京五輪で世界一に挑戦。この秋の歓喜は一瞬、もっとしびれる戦いが待っている。
最大のライバル・韓国を撃破して頂点に駆け上がったジャパン。このチームの特徴といえば、指揮官の稲葉篤紀も語るように、投手陣を軸にした守り勝つ野球と「全員で困難を打破するチームワーク」が挙げられる。
個人的には、MVPに輝いた鈴木誠也が4番で圧倒的な存在感を発揮。投手陣では甲斐野央-山本由伸-山崎康晃で「勝利の方程式」が確立されたことで、東京五輪の骨格が見えてきたのは収穫だろう。しかし、本番に向けてまだまだ多くの課題が残されている。
迫力不足が否めない打線
稲葉にとって、今後も頭を悩ませるのは秋山翔吾と菊池涼介の海外流失である。秋山は海外FA権を行使して、菊地はポスティングシステムを利用して、今オフのメジャー挑戦を表明している。
この2人は当初の侍ジャパンの1・2番候補で、いわば生命線を失うようなもの。加えて、今回の「プレミア12」では、鈴木以外のクリーンナップが固定できなかった。
3番・近藤健介、5番・吉田正尚でスタートしたが、ともに大会通算打率が2割程度では、いかにも迫力不足。最終的には浅村栄斗が勝負強い打撃で代役を果たしたが、もしも、鈴木が不調の時には誰が4番に座るのか…?不動のクリーンアップが組めないようでは、得点力アップも望めない。
また、稲葉ジャパンのもう一つの「売り」が、幅広いユーティリティ選手と一芸主義の採用だ。
周東佑京の快足で勝利をもぎ取り、外崎修汰は様々なポジションでそつない働きを見せた。打撃では全く機能しなかった松田宣浩も、指揮官はチームのまとめ役として重宝した。
しかし、選手の出場枠がプレミアの28人から五輪では24人となる。器用な一人二役を出来るユーティリティ選手の存在感はさらに増すが、一方で迫力不足の打線構成にメスも入れなければならない。鈴木に並ぶ4番候補として山川穂高や、“打てる捕手”として森友哉といった西武勢の出番も考えられる。巨人の若き4番・岡本和真の成長も気になるところだ。
自慢の投手陣は上澄みが期待できるものの…?
投手陣に目を転じると、先発要員は大きく様変わりするはず。千賀滉大と菅野智之が選出されれば戦力アップは確実で、今永昇太との三本柱が有力視される。
第4の先発に関しては、プレミアを肘の違和感で辞退している松井裕樹の動向で変わって来る可能性がある。松井が抑えに回れば、山本が先発要員となることもチームでは検討済みだ。
一方、ここへ来て日本自慢の投手陣に影響を及ぼすかもしれないルール改正が取り沙汰されている。先日行われたMLBのオーナー会議で、時間短縮を目的としたワンポイント救援を禁止する改正案が承認されたのだという。
報道によると、「リリーフ投手は最低3人と対戦するか、イニングを終了しなくてはならない」という文言がある。MLBでは2020年からの導入を目指すとしているが、もしそうなると東京五輪でも採用される可能性はある。左キラーのワンポイントとして活躍する嘉弥真新也などには死活問題、きめ細かい継投を得意とする侍ジャパンには気になる改正案である。
「プレミア12」で自信を付けた者、日の丸のユニホームにあこがれながらこの秋は故障に泣いた者、さらに秋季キャンプで成長して開幕に照準をあてる者──。戦力は常に変わっていく。
最強の金メダル戦士を求めて、稲葉のキャンプ行脚がまた始まる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)