コラム 2019.11.14. 18:30

指揮官を悩ませる貧打線【短期連載:検証・稲葉ジャパン】

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第2回:五輪へ向けた最大の課題


 決勝進出へ、剣が峰に立たされた監督の稲葉篤紀は、メキシコ戦を前に大幅な打線のテコ入れを決断した。

 相手の先発が左腕ということもあり、1番の山田哲人から2番には下位に回っていた坂本勇人を戻し、クリーアップには浅村栄斗、鈴木誠也、外崎修汰と、右打者をズラリ。これまでは鈴木の前後を近藤健介と吉田正尚の左打者で固め、ジグザグ打線を組んでいたが、ともかく調子のいい打者を揃えるしかない。それほど稲葉は追い込まれていた。

 指揮官の采配は当たる。初回に坂本の左前打から鈴木、外崎が続いて6番に回った近藤にもタイムリー、2回にも坂本の適時打で突き放すと、先発の今永昇太以下、自慢の投手陣が完璧なリレーで逃げ切った。

 とは言え、鮮やかな速攻は褒められても3回以降は散発の4安打で無得点。スーパーラウンドに突入してから、オーストラリア、アメリカ、そしてメキシコ相手に奪った得点は、いずれも3点止まりだ。安定した投手力でゲームを支配できているうちはいいが、逆に先制を許して追いかける展開になると貧打線が何とも気になる。


期待された主軸の不振


 毎試合、獅子奮迅の働きを見せている4番・鈴木の活躍は素晴らしい。だが、ここまでの戦いの中で他に打撃が光ったのは浅村くらい。メキシコ戦でヒーローになった坂本にしても、それまでは先発から外れたり、下位打線に回されるなど不振が続いていた。

 ちなみにスーパーラウンドでの打撃成績を見ると、山田が「6-0」、菊池が「7-0」に、吉田が「6-1」、松田宣浩は「9-1」で、丸佳浩が「9-2」といった数字。これでは打線のつながりもチームとしての爆発力が生まれるわけがない。

 国際試合は初見の投手が相手となるため手こずることは珍しくない。しかし、今大会の選手構成を見れば、その国のトップクラスが顔を揃えているのは日本以外では韓国と台湾程度だ。他の代表は国内リーグ、もしくは米大リーグ傘下の2A、3Aクラス。これを打ちあぐねてばかりでは、目標とする来年の東京五輪金メダルも危うい。


大会前後の誤算


 今回の稲葉ジャパンには選手選考の段階でいくつかの誤算が生じている。これまでの実績からみれば当然、日の丸をつけるべき柳田悠岐や筒香嘉智、山川穂高らのクリーンアップ常連がコンディション面や海外挑戦などの諸事情もあり選考されていない。

 加えて、大会突入後の誤算も痛かった。秋山翔吾は直前の強化試合で右足薬指の骨折、菊池は米国戦で首に違和感を覚えてメキシコ戦は休養と、監督の構想では1、2番を任すはずの貴重な要員が消えて修正を余儀なくされる。

 もう1つの計算違いは、5番として育てにかかっていた吉田の不振だろう。今年3月に行われた対メキシコの強化試合で侍ジャパンに初招集すると、クリーンアップで堂々たる働きを
見せた。稲葉にとっては「秘蔵っ子」と言ってもいい存在だったが、春の強化試合と侍ジャパンの本番では重圧が違うと言うことか――。不振組には、巻き返しと今後につながる材料を持ち帰ってもらいたい。


永遠の課題


 国際大会ではメンバー選考にも苦心する。今回の「プレミア12」の選手登録は28人だが、来夏の五輪は24人となる。投手13人、捕手3人、内野手7人、外野手5人が今大会の編成だがここから4人を削るとなると厳しい。投手陣は大幅に減らすことが出来ないと考えた場合、野手の人選に知恵を絞ることになる。

 稲葉ジャパンの特徴は、一芸主義とユーティリティー性を重視する。脚の周東佑京、内外野どこでもこなせる外崎、さらにチームの精神的柱と位置付ける松田なども一芸なのかもしれない。しかし、こうした「脇役」を重視することと、貧打線を解消することの両立が求められるのが侍の宿命だ。

 反撃に移る勝負所で代打の切り札がいない。当初の計算通りに打線が機能しなかった場合の二次戦力の薄さが露呈される。投手陣を軸に接戦で勝ち抜くのが日本のお家芸だとしても、打線のパワーアップもまた永遠の課題である。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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