◆ 戸柱のリードに応えた剛腕
初めて100球未満で7回を投げ切った尾形崇斗。その裏にあったのは女房役の緻密な洞察力だった。
勝負の8月、2位・巨人との3連戦の初戦。大事なカード頭を任され先発のマウンドに上がった尾形崇斗は、巨人打線を相手に7回を87球で投げ切る圧巻のピッチングを披露。後のサヨナラ勝利へとつながる力投の陰には、常に準備を怠らず、扇の要として新戦力右腕を導いたベテラン捕手の存在が大きかった。
この日は前回の中日戦のKOと、7月10日にやられた巨人とのリベンジを目論む、2つの意味でも大事なマウンド。そこで尾形が披露したのは、これまでとはひと味違ったマウンドさばきだった。
7回、被安打4、奪三振7、失点2のハイクオリティスタートを達成した尾形は、試合後に先輩捕手への深い感謝を口にした。
「もう戸柱さんのそのリードのおかげですね。ほんとに7回を投げて100球切ったのも初めてですし、トバさんに乗せてもらったっていう感じです」
これまでは自慢のストレートを軸にするピッチングスタイルで押していた。 しかし、セ・リーグでの対戦が重なり、相手にもデータが蓄積される。またイニングが進むにつれてスタミナも消費していく。戸柱は普段の練習や会話の中から、尾形の潜在能力を活かす術を考えていた。
「お前のパターンは1つや2つじゃないよって言われていましたし、抑えるパターンを決めつけない方がいいと言われました。押すだけじゃなくて、いろんなこともできる能力があると認めてもらってるので、そういうところを引っ張ってもらって、それを自分もできるようになってきたのかなと思います」
ベテランキャッチャーの洞察力を信じ、結果につなげた剛腕は 「1つどころじゃなくて、引き出しが3つも4つも増えました」と顔をほころばせる。
相手が自慢の直球を狙っている心理を逆手に取り、球数少なくアウトを重ねる。戸柱のリードによって、尾形はマウンド上で新たな視点を手に入れた。
◆ 日常のコミュニケーションが引き出した好投
一方、当の戸柱は控えめながら、充実した表情でこの日のゲームを振り返った。
初めてバッテリーを組むことに「めっちゃ難しいですよ。どう組み立てるか、どう能力を引き出すかを考えないといけないですから」と素直な心境を吐露する。しかしベテランの脳内にはしっかりと対策が練られていた。
「どうしても12球団でもトップクラスのストレートというボールがあるので、それをメイン、中心で組み立てて、締めでも使うことはやりがち。それですとやっぱり相手も慣れてくるし、絞りやすくなる。またイニングが進むごとに球速も下がってくる」。
MAX159キロのストレートは大きな武器。しかし打ち取り方は他にもある。「ベンチで見たり喋っていたときに、もう少し楽に投げられるのではと。真っ直ぐ100%で打ちに来るのを利用して1球で打ち取るとか、逆手に取って利用してやろうって話は普段からずっとしていましたから」
実際にバッテリーを組み、目論見通りの結果を手にした。しかし女房役は、ピッチャーを立てることに重きを置く。
「1番は彼が吸収してくれることがプラスに働いてるんです。リーグも変わりましたし、まだ1年も経っていないところで、これだけいい球種がいっぱいあるんだよって話していたことをゲームで体現できました。これでまたステップアップできるような手助けができて良かったです」
だが「試合の時も、練習してる時も話してる内容が、ゲームに繋がりましたね。改めて普段からピッチャーと話す、コミュニケーションを取るっていうのは大事だなって、再認識できました。この前の東(克樹)と組んだときも然りです」と意思疎通を続けていた点には、少しだけ満足げだった。
現在、チームは若手の松尾汐恩が主戦としてマスクをかぶる。もちろんスタメン出場の機会が限られる時期もある。だが、戸柱のグラウンド内外での姿勢は一切変わらない。ベンチにいる時も、練習の合間も、常に投手陣に寄り添い、観察し、対話を重ねてきた。
「僕も出た時、与えられた仕事をちゃんとしないといけないですし、まだまだ身体も元気なので、準備は怠らずに、後悔しないように毎日やってるんで。それが今日の勝ちに繋がりましたね。何より組んだピッチャーがいいピッチングができることが、1番嬉しいことですよ。」 静かに笑う表情には、キャッチャーとしての矜持が滲み出ていた。

◆ 指揮官が寄せる絶対の信頼
限られた出場機会でも、即座に最高のパフォーマンスを発揮する戸柱の存在感。相川亮二監督もまた、その背中に全幅の信頼を寄せている。
捕手出身である指揮官だからこそ、初めてコンビを組むの難しさがわかる。それを越えてゲームを作り上げた戸柱の手腕を高く評価する。
「今回は初めてで、すごく難しいと思いますけれども、よくゲームを作ってくれました。それはバッテリーとしてもちろん大事なことですし、追いつかれはしましたけど、やっぱり勝ち越されずに粘れたことが勝ちに繋がる。そういう意味でも役割を果たしてくれました」
正捕手の枠は一つしかない。今回は松尾の羅漢による離脱でスタメンの機会が回ってきた。それでもいつ出番が来ても完璧な準備でチームを支えるベテランの存在は、指揮官にとっても心強い。
「試合に出られなくても準備はしてくれますし、いいパフォーマンスを出してくれます。しっかりプレーしてくれるっていうのは、本当にありがたいです」
自分の成績や出番のためだけではなく、チームの現在、そして未来を見据えて投手陣に語りかける戸柱恭孝。 これから佳境に差し掛かるペナントレースに、“トバさん”の存在はやはり、ベイスターズに欠かせない。
取材・文 / 萩原孝弘