DeNA・高見澤郁魅(撮影=萩原孝弘)

◆ 支配下即一軍の舞台へ

 育成枠から這い上がり、掴み取った支配下登録。「やっと出来上がってきました」登録から少し遅れて出来上がった背番号66のユニフォームをまとった高見澤郁魅は、嬉しそうにはにかんだ。

 育成契約では出場することの許されない一軍のグラウンド。その選ばれしもののみが集まるステージに、高見澤はいきなり招集された。

 自主トレでも世話になった牧秀悟の特例抹消に伴う緊急招集ではあるが、その経験は20歳の心に大きく刻まれた。

 「一軍のピッチャーのボール、一軍の舞台で感じたことはすごく自分の中で大きかったのです。圧倒されるものもありましたし、やっぱあの雰囲気の中で野球をやっていきたいと強く思うようになりましたね」

  言葉の端々からにじみ出るのは、最高峰の舞台を肌で知ったからこそ湧き出た感情。「あの1日はすごい自分の中でいい刺激がありました。またここでやりたいなっていう風に思えたので、モチベーションも上がりましたし、プラスになったのは間違いないですね」。

 結果はショートフライに終わった。だが現状ではなかなか上がれる確率の少ない中、支配下即打席を得たことは、何かを持っていると感じさせずにはいられない出来事だった。

 そして再び鍛錬の場に身を置く高見澤。 ファームでは巧みなバットコントロールで打率はゆうに3割を超える。

 数字を残す秘訣のひとつは、追い込まれても左方向へ詰まらせながら落とす打撃技術。それは自他とも認める大きな武器となっている。

 「詰まってもヒットを打てるのは、僕の中ですごい長所だと思います。それは技として持ってるんで、打率に対してもすごくいい影響を与えています」。

  だが、その技術に甘んじるつもりは微塵もない。一軍で生き残るための自身の現在地を冷静に見つめている。

 「今の課題としては、『それしかできない』のではダメ。逆にもっと思い切りのいい打席を増やしていかないと、一軍じゃまだまだ使えない、使ってもらえないなって思っています。もっと自分の中で踏ん切りのいい打席を増やしていかないとですね。器用にできるからそれだけをやっていても、自分で通用するとは思わないんで。自分の課題をどう克服していくかなと思います」。

 理想とするのは、思い切り振り抜く打撃。初球のストレートを右中間に運ぶツーベースを例に「あの打席は思い切ってまっすぐ1本でいけました」と胸を張る。しかし「逆に変化球1本で行ってる時にああいうバッティングができるようにすることも、自分の中では大事かなと思います」。 狙ったボールを一撃で仕留めるスタイルの確立を、いまは求めていく。

◆ 「一軍では内容ではないところも見る」二軍指揮官の目

 支配下を勝ち取った若武者の変化と葛藤を、誰よりも近くで見守ってきたのが村田修一・二軍監督。

  高見澤のコンタクト能力を認め、支配下登録への道を後押しした指揮官だが、求めるレベルはどこまでも高い。

 「コンタクト能力は高い。それを球団が評価してくれて支配下になりましたからね。では次どうすんのかって言った時に、得点圏だったり、長打だったり、どれかもう1つ付け加えてこないと。ただアベレージが高いだけだったら、塁に出ても各駅停車ですから。この足じゃなんともならないんで、得点圏では確実にランナーを返しますとか、追い込まれた後も強いですとか、右も左も両方しっかり打てますとか、長打を狙ったら打てますとか、そういうのがついてこないと。守備でもたまにグローブに軽いバネが付いているときがあって、バイーンって弾いちゃう(笑)。捕ったら足を使ってトスするとか、そういうことも必要ですね」。

 走力、守備力を鑑みたとき、打撃を磨くことは最低条件。さらにただヒットを打つだけでは、一軍の壁は破れないと説く。

 だが村田監督は、支配下登録という節目を越えたあとも、貪欲に結果を求めて泥臭く試行錯誤を続ける高見澤の姿をしっかりと見逃していない。

 「結果を出したい強い気持ちが彼にはあります。それでもがきながら、追い込まれたらちょっとバット指1本短く持ってみたりっていうのを得点圏でやれるようになりましたからね。最近はセンター前への執念のタイムリーヒットも出たし、そういうところが次は必要だよねと思います」

 一軍は結果を求める舞台。現役時代4番の重責を担い続けたスラッガーは、勝利につながる一打がなにより貴重と力説する。

 「一軍では内容じゃないところも見るわけで、結果的にヒットになって『すごいね』という打席も必要。ケースによっては打球速度なんていらないヒットも絶対にあります。その辺も勉強していってほしいですね」。

  またかつて自身も大学3年時から一気に才能を開花させたと振り返る指揮官。「大学3年生で考えればいいですよね。僕も大学3年生からグッと来てるんで、彼も僕と同じように上がってきてるんで、楽しみではありますよ。あとはもう、どうするかは彼次第」と期待を込める。

 そして「誰かの真似をするとかじゃなくて、『高見澤ってこういう選手だよね』ってファンの人たちがわかってくれるような選手になってくれれば」と、オリジナリティあふれる打者へと脱皮することを願う。

 猛暑の夏場でも調子を落とさずバットを振り続ける高見澤に対し、指揮官は最後にこう釘を刺した。「ここからですよ。支配下になったからって、ここから落ちていかないように。このまま好調をキープして、今年のオフを迎えるっていうのはすごく大事な次の目標になってきますから」。

「あの雰囲気の中で野球がしたいです。課題に対する姿勢も、前より入っていけています」――あの1日で胸に灯った情熱の火は、支配下登録を経た今、より一層激しく燃え上がっている。一球に対する泥臭い執念と、己の課題へ向かい合う真摯な姿勢。高見澤郁魅が紡ぐ真の勝負物語は、ここから始まっていく。

取材・文 / 萩原孝弘

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この記事を書いたのは

萩原孝弘

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