天性の躍動感と力強いストレートを武器に昨年初勝利を挙げた武田陸玖。今シーズンは初先発も経験し、さらなるステップアップを目指している。
しかし現在は「考えれば考えるほどわからなくなる」と胸の内を吐露する。その葛藤は「感覚派」から「勝てる投手」へと脱皮するための必然的なプロセスであった。
◆ 「がむしゃら」から「観察」への変化
春先のインフルエンザによる出遅れを乗り越え、シーズン開幕以降はファームで順調な好投を続けていた武田陸玖。
だが最近になり、彼の心の中で変化が生じていた。それはステップアップしたからこその気づきと、それに伴う迷いである。
「以前は何も考えず、ただ『強い球を投げる』というマインドで臨んでいました。でも今は、打者の反応が見えるようになり、ここに投げなきゃいけない、ツーストライク取ったら厳しいコースに行かなきゃいけない……という気づきが出てきたんです。でも、それが自分ができていないと実感して、ちょっと落ち込んで苦戦しています」
プロ3年間で培った経験から「マウンドに冷静に立てるようになった」と視野は確実に広がった。一方「いままで自分が知らなかった、できていなかった部分がわかるようになってから、厳しくなってきていますね」ともがいている。
ただ成績を見れば、崩れてはいない。6月に入り2敗を喫しているが、その内容は5回3失点と6回1失点とゲームはしっかりと作れている。しかし本人の表情は優れない。「大事なところで打たれたり、ここでそのボールは投げてはいけないよねというときに投げてしまったり…最近はそういうのが多いんです」。
観察できるようになり、駆け引きの大切さも実感したことで、単にゾーンへ力で押し込む投球から、丹念にコースを突く投球へシフトしようとする中で、自身の感覚とのズレに悩んでいる。
◆ 一軍の洗礼の先に見えた課題
初の先発として挑んだ一軍のマウンド。相手は好調の西武だった 。また勝利投手となった昨年のデビュー戦とは異なり、登板の1週間前から先発が言い渡されていた。
「デビュー戦は全体練習に出て気づいたら試合という感じでしたが、今回は時間も多くて考えすぎてしまいましたね。嬉しかったんですけれども、結果も残さなきゃいけないですし、西武打線が強力だと聞いていたり…頭はゴチャゴチャになっていましたね」
楽しみと不安が入り混じる独特の緊張感の中、冷静を欠きマウンドへ上がった。「いつも通りに投げようとしたんですけど、なんか違うなみたいな感じでした。いつもと感覚が違うと思うと余計に焦ってしまい、ストライクを入れないと入れないとと思っていたら、ボール先行になってしまって…応援や独特の雰囲気に飲まれたのもありました」
修正は効かず、2回で降板と悔しい結果となった。「ストライクゾーンで勝負できていればもっと違う結果になったかもしれない。でも、それができなかったのは単に自分の実力不足です」
一軍の厳しさを肌で知ったからこそ、意識は高まり、同時に迷いも深まった 。そんな彼に対し、チームの先輩であり同じ左腕の坂本裕哉からもアドバイスが送られた。「ボールはいいって言ってもらって、初球からゾーンに強く投げ込んでいけば簡単に打たれることはない」。
先輩の言葉も咀嚼し、自信を取り戻すように、現在は日々試行錯誤を繰り返している。「二軍に落ちてきてからは、狙いすぎると逆にストライクが入らないことがすごくわかりました。自分、ストレートは強いので、ゾーンに投げ切れればファールも取れる。考えるのは追い込んでからにしよう」
ファームで若手投手を手塩にかけて育てる入来祐作投手コーチも「 武田は独特のリリースポイントから出てくる力強いストレートがある。それが通用することはもう分かっているんです」とストロングポイントは熟知している。
「今彼がぶつかっているのは決め球の習得や精度。一つひとつの球をいかに自分のものにしていくかという段階に来ています。考えるのも技術のひとつ。 技術は一足飛びには得られないですから、狙って投げるという習慣を、試合だけではなくてキャッチボールから意識しないといけないんです」
武田が今ぶつかっている壁は成長における不可欠な段階と捉えているコーチ。「いろいろ考えながら、一年間しっかりと投げ続けること。まずそれが彼にとってやらなければいけないことです」。
投げ続ける力を蓄え、技術力も身につける。名伯楽は厳しくも温かく21歳を見つめている。
◆ 迷いなき後半戦へ
フレッシュオールスターにも選出され、前半戦ラストゲームで1イニングを無失点に抑えた武田は「自分の良さであるストレートでどんどん押そうとミーティングで話し、その通りにできました」と明るさも取り戻しつつある様子が感じられた。
フレッシュオールスターでも1イニングを3人で抑え込み、いい感覚でリーグ戦に戻ることができた。「課題を持ってしっかり投げ込み、いい形で後半戦を迎えたい」
「考えるのも技術のひとつ」。師の言葉を胸に、技術を磨き、経験を積み重ねる21歳の挑戦は、ここから加速していく。
取材・文 / 萩原孝弘