かつて高校野球界を沸かし、天性のスピードでドラフト1位の指名を勝ち取った森敬斗。
プロの世界でもショートのポジションで期待を集め続けてきた男が、今季はセンターへの配置転換という大きな転機を迎えている。
一軍では勝又温史がブレイクし、一層熾烈となったベイスターズの外野事情もあり、シーズン開幕からここまで、昇格を果たしていない。だが横須賀の地で春先の苦闘を乗り越えた24歳は今、静かに、力強くあの煌めきを取り戻しつつある。
◆ 焦りと欲が招いた春先の試練
2026年の春先、ファームのグラウンドにはもがき苦しむ森の姿があった。一軍での出場機会を掴み取るため、「結果を出さなければ」という焦りと欲がスイングを狂わせ、4月は打率1割台を彷徨った。
「強く振れるようになり、飛ばしたいという気持ちが勝っていました」。昨年は身体面のコンディションが整わぬ時期もあり、納得行くアプローチができていなかった。しかし今年はその点に不安はない。「しっかりと振れるようになりました。でも…」。長打も打てるプレーヤー像を思い描いていたが、現実は甘くなかった。鋭いスイングを求めるあまり打撃の再現性を欠き、三振や内野ゴロを繰り返す悪循環に陥っていた。
24年のポストシーズンで見せたような躍動感を取り戻したい。その思いとは裏腹に、結果は伴わぬ日々。「やっぱり欲が勝っていたところがありました。大きいのを狙っているわけじゃなくても、強く振れる分、雑になってしまっていた。元々そういうバッティングをするタイプではないのに、引っ張りに行こうとしたり強く打とうとすると、どうしても身体が動いてバットの軌道がずれてしまいましたね」。
グラウンドでは大きな声で仲間を鼓舞し、ハツラツな姿を見せていた。しかし煌めいていたあの頃と比べると、どこかエネルギーが低下しているように見えた。
◆「生き残るために何が必要か」指揮官の問いかけ
迷走するドラ1に対し、導きの手を差し伸べたのが村田修一・二軍監督だった。「最初は振って振って三振をいっぱいしていましたけれども、それでも容認して下位打線で使っていました。当初はあえて制限をかけずに振らせ、現実を直視させる期間を設けた。しかし、凡打を繰り返す姿を経て、指揮官は初めて問いかけた。
「アウトになって『いい当たりだったね』で終わってしまっては、プロ野球選手として生き残れないんじゃないの?」
ホームランを狙って、結果ヒットを打つのは年間40本をマークする「山川穂高とか中村剛也たち」らスラッガーの領域。「そういう選手になれるのかって問いかけをして、そうじゃないんだから3割打って、ホームランは5本ぐらいでもいいんじゃない?そのほうがどう考えても毎日使ってもらえるよね」
森に求められているのは、打率を残し、高い出塁率で出塁して自慢の足で相手バッテリーをかき回し、ホームへ帰還すること。
強みを再確認させつつ村田監督が森に提案したのは、チーム方針でもある『ショーハ』の意識の徹底だった。ショーハとは「ショートに振り抜きハードにコンタクトする」こと。
「スイングスピードが速くても、芯に当たらなかったらボテボテの内野ゴロになるだけ。まずボールを長く見て確実に芯に当てる。コンタクト率が上がれば森の価値はもっと上がる。確実に芯で捉えるからこそ打球速度が出て、それが抜けて長打になる。その先にホームランがあるんだという話をしました」

◆ 7月に掴んだ確信と高い再現性
村田監督からの助言を胸に、打撃への意識を変えた森。
スイングのイメージを「センターから逆方向」に設定。「ポイントを自分の1番いい位置に持ってこれるようにやっています。ひとによってポイントは違いますが、僕はボールを見極めたいですし、前の方だと手打ちになって力のない打球になってしまいますので、身体に近いポイントのイメージでやっていますね」。
ボールを呼び込み、そこに対してコンパクトに「短く強く」する。この取り組みによって、打率も出塁率も向上した。良いタイミングとスイング軌道が確保されたことで、選球眼も良くなり四球を選べる機会が急増。少し詰まったりポイントがずれたりしても、芯付近で捉えているためヒットゾーンへ飛ばせるようになった。
結果7月はここまでで打率.375、出塁率.435と数字も着々と伸ばしている。
◆ ショートの経験が生きる新境地
今季から本格挑戦しているセンターの守備でも、森は持ち前のポテンシャルを存分に発揮している。当初はナイターの照明や距離感に不安を残していたものの、上田佳範外野守備コーチの指導のもと、今ではファーム屈指の守備範囲を誇るまでに成長した。
また長年培ったショートとしての経験が外野守備に大きく活きている。「体勢を整えて投げることは大前提ですが、ちゃんと整えられない場面でもそのままでも投げられます。そのポジティブなところは伸ばしていきたいですね」。
打球に対するバウンドの合わせ方や、バラエティに富んだ体勢から、崩れた状態でも送球できるセンス。ストロングポイントの強肩と俊足は、チームのピンチを幾度となく救ってきた。村田監督も「センターの守備は『これ落ちるかな』と思う打球でも平気で追いついて捕ってしまう。守備と走塁は二軍では図抜けていますよ」と絶賛する。
慣れ親しんだショートにも「やれと言われればやりますけど、まずは試合に出てナンボですから」と出場機会を最優先に捉える。それは一軍のグラウンドに立ち、チームの勝利に貢献すること。その一点だけにフォーカスしている何よりの証左。
春先の苦境から這い上がり、自分のスタイルを再構築した森敬斗。「基本に立ち返り、地道にやってきたことが身になってきた」と語る表情には、自らのスイングに対する強い自信と手応えが漂っている。
あの頃とは違い、日焼けした姿で横浜スタジアムのグラウンドを駆け巡るその日を思い描き、背番号6は虎視眈々と自分を磨き続ける。
取材・文 / 萩原孝弘