プロは限りのある一軍キップを奪い合う弱肉強食の世界。たった1試合の失点が、それまでの積み重ねをリセットしてしまうことがある。堀岡隼人がいま置かれている現状も、まさにそのシビアな壁の渦中にある。
オフは“チーム・康晃”の一員として研鑽を積み、開幕一軍は逃したものの、4月3日には一軍の舞台へ昇格。
しかし5月1日、大差のついたビハインドで失点を重ね、翌日には横須賀の地へと戻ることになった 。それまでは5試合で6イニングを投げ失点は1。だが「ああいう試合を抑えていかないといけない立場ですからね」。立ち位置を理解するプロ10年目は、降格を受け入れる他なかった。
しかもその試合のラストは柴田竜拓がマウンドに上がるという、投手としては悔しさが残るシチュエーションとなった。 「僕がそういう試合に関与したっていうのは、もちろんよくないと思います。野手の方やチームの方に申し訳ない思いはあります」
巨人時代にも経験した忸怩たる思い。だが先を見据えなければ、希望も見えない。「自分自身的にはもう切り替えて。もう僕にはどうしようもできないんで。野手が投げてるななんて思って見てても何もならないですから。なんで打たれたのか、じゃあどうやって抑えるとかを考えてました」 どこまでも冷静に、そしてプロとして牙を研ぎ続ける強さが、その言葉には宿っていた 。
◆ 投球スタイルを進化させる新球への挑戦
自慢のストレートとフォークを軸に勝負してきたが、昨年から大きなモデルチェンジに挑んでいる 。「今年結構形になってきています。少しずつ操れているので、自信を持って投げれる球の1つになってくれたらいい」とカットボールとシュートに活路を見出す。
一般的に、ストレートと落ちる球を武器にする投手が曲げ球を取り入れると、縦の軌道に悪影響が出ると言われる 。しかしそのリスクも頭に入れた上で、自分の生きる道を模索してきた 。
「僕は入ってきた尾形(崇斗)みたいに、真っ直ぐがものすごい速いわけでもないんで。どこかに特徴を出しながら、僕の球の質を活かしながら、どんなボール投げたらいいかと考えました。あとはそんなにコントロールよくないんで、カウントアップできる球を探していったらそうなったっていう感じもありますね」。すべては打者の一瞬の目先を変え、投手優位のシチュエーションにするため 。泥臭くチャレンジを続けてきた新球は、今や大きな武器となりつつある 。だが同時に、自らの原点を見失うつもりもない。
「もちろんストレートが良くないとどんどん振ってくれないですからね。真っ直ぐありきですよ。そこを見失ってはいけないというのはありますね」
◆ 「泥水すすってでも、チャンスを待て」名伯楽が信じる不屈の右腕
そんな堀岡の進化を入来祐作ファームチーフ投手コーチも高く評価する。
「カットとシュートは結構勝負球として使えるところまできて、去年と比べて投球スタイルが変わってるんですね。真っ直ぐもしっかり投げ込めてるし、僕はずっといい状態を保ってるという風に思ってるんですよ」と太鼓判を押す 。
それだけに一軍から降格してきたことに「僕は歯がゆい思いで見てますけど」と本音を漏らす 。
大事な場面で起用し続けることも、一軍への準備の証。コーチは降格後は主に9回のマウンドを託し、6試合で1勝3セーブ、防御率は0.00と好調をキープさせている。
「非常にたくましい選手ですよ。一軍ではなかなか投げられないこともあり、登板感覚も空くときもあります。でもそれは当たり前ですよ。だけどいつか呼ばれる日が来るんで、その時をひたすら待つ。それまで、まあ言葉悪いですけど、泥水すすってでも、いつかそのチャンスを待つというような形でやってくれたら。必ず実を結ぶはずですから」。コーチは彼の持つポテンシャルを信じている 。

◆ どこでも投げる覚悟
またあの場所へ戻るために。そして今度こそその座を渡さないために。「カウントを悪くしてやられてしまうのが僕のパターン。調子の波を意識して、試合の中でも修正できるように。投げていて良くないときでも抑えられるようにやっています」
いまはどんなスクランブル登板も、タイブレークでの出番も、すべてを一軍のマウンドで圧倒するための糧にしている 。
「身体が強くて怪我しないっていうのも僕の売り。今年はやれる感触もありますし、しっかりと自分の思った通りに投げられていると思います。まずは必要とされた時に、どこでも使ってもらえるように」。 ビハインドでも回またぎでも連投でも、チームのために腕を振ると宣言する。
いつか必ず訪れるその日のために 。高卒で巨人に入団し育成→支配下→育成→支配下、そして戦力外通告。DeNAに移籍し再び育成から支配下を掴み、“夢は逃げない”こと証明し続ける右腕。
背番号92は静かにその牙を研ぎ澄まし、必ずや横浜で花を咲かせてみせる。
取材・文=萩原孝弘