DeNA・石田健大(撮影=萩原孝弘)

 石田健大は今、静かながらも確かに復活のステップを踏んでいる。度重なる肩の故障を経て、実戦のマウンドに戻ってきた左腕の姿には、これまでのルーティンやフォームをあえて崩し、新たな自分を再構築しようとするストイックな姿勢が現れていた。

◆ 過去を捨て、理想を追う33歳

 FA残留を決め、横浜で腕を振り続ける覚悟を示した23年オフ。気持ちも新たにしスタートした24年だったが、6月に左肩の肉離れをキッカケに歯車は狂った。その後も患部の状況との睨み合いが続き、昨年はプロ初の一軍登板なしに終わってしまった。

 長い自分との戦いの末、ファーム開幕からマウンドへ立つまでに至った現在の石田の姿には、その試行錯誤が詰まっていた。

 つま先でマウンドを突き、小さく膝を曲げながら両腕を振ってセットに入る。特徴的だったルーティンは、大きく左に持ったボールを掲げる姿へと変貌。フォームも重心を下げ、メカニカルはシンプルな形に行き着いた。

 「肩優位に投げるんじゃなくて下がしっかり動いて走った状態で、上が巻き付いて出てくるためにどうしたらいいか」

 かつての自分に固執するのではなく、今の身体が最も力を発揮できる形を探る。データや数値に頼りすぎることなく自らの感覚を研ぎ澄ませて、肩に負担のかからない理想のフォームを追求した。

 結果ここまでファーム9試合、12イニングで無失点。ストレートも145キロを超えるほどまで出力は上がってきた。そしてそのボールはキャッチャーの意図したところにビシッと決まる。
 
 「そこだけ間違えちゃうと、僕の今の球速だとすぐ弾き返されるんで。そこは丁寧に投げながらですけど」

 コマンド能力は己の生命線。しかし自身が描く完成図はさらに高い場所にある。

 「もうちょっと球速の方も上がってくれればと思ってるんです。そこが上がってくると、腕の振りとキレっていうのも、ちょっとずつ上がってくるかなと思うんでね」

 肩の状態は「90%と言ってもいいぐらい」まで上がってきた。ただし「ファームのバッター相手には圧倒できるボールを投げなければいけないです」と、常に一軍の強打者と対峙していたからこそ、自身への物足りなさを実感する。

 「なにかもうひとつ足りないからなんです。トレーニングしながら上げていきますよ」

◆ 同級生にも刺激

 現在のチーム状況、特に一軍のブルペンには昨年から坂本裕哉しかいない現状も重々承知している。

 「いまは中継ぎで待機しています。なのであとはロングもできるように準備していきたいですね」

 また同じ2014年ドラフトで入団した山﨑康晃は、今季守護神の座を奪い返す活躍を見せる。

 「刺激になりますね!ああいうの見ているとね、まあ僕も本当にやんないとって思うし、負けてられないなという気持ちも持ちながらやっていきますよ」

 さらに「30を超えた人間がどれだけやれるかが、これから先のシーズン通してやっていく中ですごく重要なキーになると思うんで。少しでもチームの役に立てるように、今よりも状態を上げて、それを継続していくしかないかなと思っています」

 若手の台頭も著しいなか、修羅場を潜り抜けてきたベテラン左腕がマウンドで放つ存在感は、チームにとって不可欠。

 村田修一二軍監督はその姿にかつての戦友の影を見た。「杉内(俊哉)が投げているように見えました」。石田の肩への負担を軽減するために行き着いた新フォーム。指揮官の目には、同級生であり切磋琢磨し続けた球界を代表する左腕の名を引き合いに出すほど、無駄な力が抜けていると映った。

 「連投もできていますし、最近出力も出てきたという風に見えます。コントロールは元々いいので。もう一人左がいてもいいですし、僕はもう呼ばれてもいいかなと思いますよ」と昇格にも太鼓判を押した。 

 しかし石田の中ではまだ理想の姿を模索中。「自分のボール投げ続けてね、名前呼んでもらえるのを待つだけですけれども…もう少しレベルアップしないとです!」

 暗黒時代から抜け出そうともがくベイスターズの過渡期に、先発、リリーフ問わず腕を振り続けた33歳はいま、自らに『圧倒』という高いハードルを課している。

 自らとの戦いを終え、打者との戦いへと駒を進めた石田健大。その名前を呼ばれるその瞬間まで、静かに、熱く、理想の自分を追い求めていく。

 
取材・文=萩原孝弘

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この記事を書いたのは

萩原孝弘

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