防御率0.00、奪三振率14.00。ここまで圧巻投球を続けている中川虎大。
だが春先は絶望の縁を彷徨っていた。スピードアップを追い求めた結果、フォームを崩した。一時は「ぶっちゃけ、投げ方分かんなかったんです。そこまでどうやって投げたらいいのか」という迷宮に迷い込み、ファームで1イニング4四球という屈辱も味わった。
しかしプロ9年目の右腕には引き出しがある。「下半身の使い方は良かったので、そこは残しながら、上半身をどう下に合わせていくかっていう部分。そこを軽いキャッチボールから始めていったらこれだというものがすぐわかりました」。
まだ「しっくりした球は投げられていないですね」と理想には届いていないと言い切る。
◆ WBCで確信した「球速」の重要性
中川の投球論には確信がある。その背景には、国際大会で見せつけられた圧倒的な現実がある。
「レイノルズとかもそうですけど、速かったらやっぱりなかなか打たれない。WBCでも155キロを超える球を海外の選手が普通に投げていたじゃないですか。メジャー組はそれを打ちますけど、日本代表の(NPB組の)選手は打てなかったじゃないですか」
世界最高峰の舞台で、155キロ超の速球に力負けする打者たちの姿。それこそが、彼が追い求めるべき答えだった。「速い球を投げたら、日本のプロ野球だとそもそも打たれない」 。
「まずはそこまでスピード上げる。速い球を投げることは、いまの時代では色々確立されてきてる中で、どうやって速くしていくのか。あとは、コマンドどうつけていくのか、そこの部分だと思います」。打者を圧倒する出力を手にすることが、プロで成功する最適解と説く。
◆ フォーク一択からの脱却
「いいときは150キロ後半出ていたんですけどね」今シーズンはまだ最速153キロと、理想のスピードには届いていない。だが「今年は真っすぐでファールが取れるし、押し込んでアウトも取れる。バッターに『いつフォークが来るんやろ』と思わせたら、その時点で僕の勝ちです」
昨年は「真っすぐに自信がなくて投げるのが嫌でした。フォーク一択でしたね」と納得のいかない投球を続けていたと告白。 「振ってくれなかったらフォアボール出しちゃうよね」という薄氷を踏むような投球から一変、現在はキレのあるストレートでゾーンに投げ込む。
ストレートで圧倒できるからこそ、伝家宝刀のフォークが生きる。その相乗効果がマウンドでの余裕をもたらす 。「ポンポンと追い込めれば、次は真っ直ぐでもフォークでも、なんならカーブでボール球にしてもいいですしね」
◆ 「9球3三振」の美学
そのうえで目指すものは“三振へのこだわり”。「三振を取れば何も起きない。運の要素が関係ないんです。ボテボテの当たりでもヒットになる可能性があし。ランナーが出れば失点のリスクが上がりますよね。だったら、三振を取るのが一番リスクが少ない。ベストは9球、空振り3つの三者連続三振です」
エラーも、不運な安打も、一切の介入を許さない奪三振という解決策。 イマキュレートイニングを追い求め、データの裏付けを持って「K/BB」にこだわる彼の姿勢は、極めて現代的で合理的。
「クローザーって基本的に奪三振率高いですよね」。かねてから公言する“クローザー”になるためにも、奪三振は必要な要素。 引退した三嶋一輝の登場曲を引き継ぎ、近年クローザーを務めた師と慕う森原康平の跡を追う男は、そこを手に入れるため鍛錬を積む。
肘にメスを入れ、現在はリハビリ中の森原には「帰ってきた時に、僕のポジションを取られたらムカつく」と不敵に笑う。 その言葉の裏には、自らの力で横浜の最後を締めくくる覚悟が滲む。
「失点しなければチームは負けないですから」 。純粋な真理を証明するために、中川虎大は剛速球を追い続ける。
取材・文=萩原孝弘